第40話 新入りがよくやる銘柄、株数違い
7月1日 午後10時
「おい、藤原、机の下で何ウンウン唸ってるんや」
「あ、太田先輩、アカン!やってしもたんですわ」
「何や、何をやったんや言うてみい?たいがいの事は驚かんで」
「もう絶対クビや、NTT成り行きで1000株買いだしてしもたんですわ」
「ええ!さすがにそらあかんわ、すぐに株式部に買い注文止めてもらわんとあかん!」
これはもう笑える限度を越えている。
日本の株式市場をかけての大チョンボである。
株式の売買は普通最低1000株からである。中には例外もあって、例えば電力株は100株単位ソニ-も100株単位と決まっているが銘柄の数は少ない。
NTT株はご存じのとおり1株単位である。
しかし常に証券マンは1000株単位で売買している感覚からのミスである。
客が間違って1000株と言ったのか単に入力時にキーを押し間違えたのかは定かではないが、いずれにしても「成り行きでNTTを1000株」というのは市場に大きな影響を与えるに十分なロットである。
この日の朝からNTTが理由もなく買い気配でスタートしていて、他の営業マンもなにかNTTに新しい材料がでたのかどうか真剣に討論していた矢先の事である。
まさか震源地がすぐとなりであろうとは夢にも思わなかった。
NTTの1000株はふつうの株でいう、100万株に匹敵する。
どんな株でも100万株で成り行きの買いを出せば、自然に売り物が引っ込んで値段がつかなくなり、いわゆる「買い気配値」だけが、どんどん上がってくるのである。
結局この結末は、株式部に買い注文の取り消しをしたが間に合わず1000株のうち340株が買えてしまったのである。
それを100店舗で割って4株ずつ各店ではめこんで終わったのであるが、なんとも心臓に悪い一日であった。
しかし冷静に考えると彼は新人ながら全店を巻き込むほどの「仕切り」をやっただけのことではあるが・・・
株数間違いの他に新人がよく間違って場中に悲鳴をあげるものに、「銘柄間違い」なるものがある。
たとえば客が「ニッコウ」といえば「日本航空」と思うが「日本鉱業」もある。
「ニチロ」といえばそのままの「ニチロ」もあるが「日魯漁業」もある。
「日本製鋼」と「日本精工」もややこしかった。
よくやったのが「明治製菓」と「明治乳業」で こちらは当時の株価まで似たようなものだったのでさらにややこしかった。
余談として当時からの風潮で企業のCI(コーポレーション・アイデンティ)のため英語三文字の企業がふえた。
そのためかなり年配の投資家の中には何度言っても持ち株を覚えてもらえなかった経験がある。
「えーっと、社長の銘柄はTDKが5000株、NTT10株、新規のSMCが1000株、NKKが3万株、今日売ったKDDが2000株です。わかりましたか?」
と何度いっても
「もうようわからんから、まかせるわ。」
となって
「以外と英語三文字銘柄ばかりでいけば、まかされ客が早くできるかも・・・」
とよからぬ作戦を考えたほどであった。
株は日本名に限ります!!要注意!!
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