第39話 暴力、傷害なんでもありの支店内


6月25日  午後6時


「三田支店長、ちょっといいですか」


「なんだ営業課長!投資信託は少しはつまったのか?」


「いやまだなんですけど、その・・・若手たちが今夜から週末を利用して課員全員でバス旅行に行くらしいんですよ。そのバスの発車時刻が七時らしいんで早くかえしてやりたいんですが・・・」


「なんだと!大森!おまえ営業課長だろ、正気か?ちょっとこっちにこい」


この後、二人が入って行った支店長室で「パンッ」と乾燥した音がしたのちに何かが倒れる音がした。


営業課長がほっぺたをハンカチで押さえながらデスクに帰ってきた。


口からは血が出ていたのを憶えている。


「みんな、ガンバッて支店長に言ったんだが、このとおりだ。しかし殴るなんてひどいよなあ・・・しかしこれが現実だから、馬力だして早くつめよう!」


この時も結構ぐっとくるものがあった。


課員全員が今からの楽しい旅行の事など、いっぺんに頭の中から吹き飛んでしまった。


まあ、ある程度は「叱られるな」という予測はしていたが、まさか営業課長がそのトバッチリで殴られるとはだれも予想していなかった。


ましてその理由が自分の部下の快楽のためであったのでなおの事である。


「課長、どうするんですか?訴えるんだったら証人になりますよ」

という課長代理の言葉に


「いや、数字さえできていたらこんなことはなかったハズだ。支店長もなにも殴りたくて殴ったわけじゃないないから、見なかったことにしてくれ。そして全員で前向きに数字つめようじゃないか。」


その後一斉に全員が電話しだした。


客に今見たことをそのまま告げると

「なんという会社や!そんな会社はよやめてウチに来なさい」

といわれたが、一応みんなの気合いが通じてか注文はだいぶ取れた。


旅行の幹事の人間にひっきりなしにバスの運転手から電話があった。

「もう7時過ぎてますよ、早く来てもらわなければスケジュールが狂ってしまいます、一体何をやっているんですか?」

などとこちらの血みどろの修羅場の事も知らずに悠長なものである。


この時の全員の気持ちは旅行のことなどまるで頭になく、「ただ早く数字をつくってこの現実から逃避したい」

一念であったと思う。


結果は30分ばかりで支店のノルマはクリアしてみんなバスに乗りこみはしたものの何か釈然としない雰囲気で旅行に出発したのであった。

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