第38話 騙しあい、営業マンと営業マン



6月22日  午後2時


「おい、木村か、いいネタ仕入れたぞ。」


「何や、銘柄は?」


「日本加工紙や間違いないそうやで。」


「理由は?」


「大阪のSがずいぶん買っている、ワラントがらみでぶち上げるらしいで」


「ホンマか!すぐ買い注文出しとくわ」


営業マンどうしの電話のやりとりである。


これは二とおりある。


ひとつは仲間であるから本当にいい情報を、与えたいが悲しいかなガセの場合。


二つめは自分が買ったあとから大きく買ってもらって「株価をあげてくれたらなあ」というほのかな期待を抱く場合。


結構、証券マンどうしも頻繁に情報のやりとりをしていて、会社の無料専用回線で他の支店に簡単に連絡ができるようになっている。


だいたいは相場の途中に他支店の同期の連中と話をする事が多い。


なぜ相場の途中が多いかといえば、スピーカーからの雑音が大きくてまわりに、なにを喋っているかが悟られにくいからである。


前出の営業課長があまりにも、相場をはずす場合は他の支店では何の銘柄を今、買っているかむしょうに気になるものである。


ただむこうはむこうで相場のドへたな課長がいるのでお互い全く同じ条件となる。


するとサッサと見限って自分たちでネタを探す。


多くの場合は自分の顧客からの情報が一番安心できるという理由から、大手の株の売買している客を担当している営業マンに電話が殺到する。


「おまえんとこの例の大手客、今何買ってるんや」

とか

「うちの推奨銘柄、例の客は買ったんか買ってないんか」

とか、とにかくその情報の信憑性を顧客の売買によって判断しようというわけなので、客からすれば、ていのいい「リトマス紙」扱いされている気分であろう。


要はだれがなんと言っても、客は自分でリスクを負って買うわけであるから一番情報源としては信憑性が高いのである。


悲しいかな「言うだけ」で自分では決して「買わない」支店長や課長の言葉は全く判断材料にはならない。


その中で「大阪のS」という伝説中の顧客がいた。


この顧客が「買う」ということはよっぽどの材料があるはずだという判断である。


逆に、いくらいい情報があってもこのSが買ってない時は、絶対われわれ証券マンも乗らなかったほどである。


よく相場でいう「当たり屋につけ」というやつである。


あと各証券マンの溜り場になっていた「D」という雀荘が梅田にあって、筆者もときどき参戦していた。


四人が各4大証券の営業マンという場面もあってよく

「今期の4大証券の経常利益を賭けてやりますか」

などとバカな事を言っては囲んだものである。


マンガンをふると

「ハイ、大和証券さん、8000億円の特別損失です!」

と手を倒すのである。


この場でやりとりされる情報はかなり角度が高かった。


各自自分の会社の威信をかけての情報であったため結構ガセはなかったように記憶している。


「以外と4大証券の社長連中も同じように囲んでいたりして・・・」

とよく思ったものである。

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