第37話 騙しあい、管理職と営業マン
6月21日 午後1時
「チョット集合!この銘柄はなあ、ここだけの話、前の店でオレが担当だったんだ、間違いなく新薬がでるから、値段が動かないうちに買っておけ、今まで迷惑かけた客優先だ。」
「課長、本当に上がります?」
「この会社の社長はオレもよく知っているんだ、ガセはない!信じて買えって」
「本当ですか?」
この「集合!」が、かかった時の雰囲気はちょうど競馬場のコーチ屋が大きな声で自分の予想をわめいているシーンを想像していただければよい。
同じ会社の課長が課員に対して意識して騙すつもりはないのであろうが結果としてそうなればみんなが疑心暗鬼になってくるものである。
テクニックとしてよくやられたのは、「石川島に外人の買いがはいっている、自分で確認した、まちがいない」
というトークでこの場合全然上がらなかったので問いつめると別の支店に口座をもっていた有名なタレントでもある外人歌手のAさんがこの株をわずか5000株買っただけの情報であった。
うーん、たしかに「外人の買い」だわなあ・・・
後、多いには
「~証券のH株式部長の極秘情報だ」といってしかけて来る場合。
だいたい
「絶対口外するなよ!」とバカでかい声で説明する極秘情報なんてありえないものである。
それでも一歩譲って、3回に1回でも当たればよいが、まずこのような形で課長から出された情報で当たった試しがない。
要は彼らもまたその情報元にだまされているからである。
つまり大きな株数をかかえて、上の値段で売り抜けたい客がいればそれに見合っただけの買い株数を揃える必要がある。そこで「~が買ってる」、とか「~の極秘情報」だとか言って買わせる寸法である。
株の相場は水物であるので「当たった、当たらない」は仕方ないものとしても、情報さえしっかり取っておけば、しないですんだ損は避けられるはずである。
にもかかわらず、自らそのニセ情報に突進していき、あまつさえ自分の部下にも買わせるような事をしているといくら上司とはいえ疑いの目で見られざるを得ない。
そこらへんがよくわかっていないので連日あいも変わらず大きな声をだすハメになるのであった。
この営業課長、いつも昼食時は食堂で一人ポツンと離れた場所で寂しく喰っていたのを憶えている。
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