第35話 ストーリーと相場
6月16日 午後2時
「社長、とにかくウオーターフロント関連株です。これ以外は株じゃないと思ってください。」
「大田君か、具体的に銘柄はなんだ?」
「東芝、小野田セメント、東京ガス、石川島播磨、日本鋼管です、東京駅から新宿まで車で30分以上、海にむかえばこれらの会社の持っている土地まで10分とかかりません。いかにこれらの土地の評価が高いかがおわかりでしょう。」
「よっしゃ、日本鋼管買おうか!」
「はい!!ありがとうございます!!」
昭和61年・・・トリプルメリット
62年・・・ウオーターフロント
63年・・・キャピタルロード
平成 元年・・・リストラクチャリング
これらは、その年々の株式相場を盛り上げるテーマであった。
そのテーマに沿ってさまざまなストーリーが各証券会社でつくられ銘柄がきまり、顧客に買わすのである。
まず昭和61年の、「トリプルメリット」とは文字どおり3つのメリットすなわち(円高、金利安、原油安)の事をさす。この3つの恩恵に預かっている企業群を「さあ!買いましょう」といくわけである。個別銘柄として、電力、ガス(材料である原油、ガスが安い)、総合商社(銀行の借り入れ残が大きいので金利安がメリット)、流通企業(円高のため、海外の商品が安く手に入る)となる。
昭和61年4月1日、日経ダウは初めて2万円になった。
ここから狂騒曲の幕が上がることになる。
昭和62年の、「ウオーターフロント」とは、東京湾沿いに広大な土地を持つ企業群をさす。
東京駅から西へ向くより東を向いたほうが近くにいい土地がたくさんあるじゃないかという発想である。
具体的には東芝、日本鋼管、小野田セメント、東京ガスなどである。
昭和63年の「キャピタルロード」、とは前年のウオーターフロントによって東京から千葉にかけてのいわゆる京成電鉄沿線の土地を持つ企業をさす。具体的には、京成電鉄、三井不動産、千葉銀行などである。
平成元年の「リストラクチャリング」は、大規模の企業のリストラを敢行してスリムになった結果、経常利益がアップした企業群のこと。
具体的には新日鉄、NTTなどの大型株である。
総じてストーリーに沿って複数の株を勧める場合、どうしても大人数が参加するために銘柄はおのずと、発行株式数の多い大型株になってくる。
「社長、ゴルフ好きでしたよね、一番アイアンから六番アイアンまで100万株ずつ揃えましょう!」などとよく電話したものである。
ここでいう一番アイアンとは新日鉄のことで二番がなくて(元の富士製鉄)、三番が川崎製鉄、四番が日本鋼管(現在のNKK)5番が住友金属、六番が神戸製鋼である。
「なるほど、シャレた注文やなあ、それ全部いっとこうか。」
そんなファンキーな注文がとれる相場は二度と来ないであろう・・・
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