第34話 続争奪戦 新発物



6月15日  午後4時


「おーい!転換社債部からの連絡で新発の全日空のCBが手に入ったぞ、課で1000万ずつの配分だ、特に新規顧客開拓用に使え!」


「500万下さい!」


「わたしも500万下さい!」


「わたしは1000万全部ほしいです!何とかしてください!!」


またもやクレクレコールが起こる。


今は相場が下火なのでおそらく想像もつかないであろうが、当時は例えば3回の三菱重工の転換社債を新発で買って、2週間後の寄付きで売ったら204円で売れたのである。


つまり、100万円がわずか2週間後に倍の204万円となったのである。


 

その後の全日空も170円で寄り付いたので、「新発CB神話」なるものが横行し、客の中にはこれだけを取りたいがためにいろんな証券会社に口座を作って100万ずつ入金していたのもいた。


当然客がそんな状態で欲しがる商品だけに、当の営業マンが欲しがらないはずはない。特にいつも迷惑かけている顧客を多数かかえているやつは、なんとしてでもこれを取ろうと必死になっている。


ただ支店としては、相場で迷惑かけた客より新規で口座を作ってくれる客にたいしての戦略商品と考えていた。


支店では「新規客を月間何件つくれ」というノルマもあったからである。


先の「即転玉」と違ってン千万もいらないわけであるからかなり、新規の人にでも勧めやすかった事は事実であるが、中には「食い逃げ」といって、新発の転換社債だけを買って、後は一切株も何もしない客がいたものである。


これを「新規開拓に使います」

と偽って、親戚縁者に配りまくっていたやからがいて、話題騒然となった。


ただこいつのうまい所は、本当にそれに見合う分の新規客を取ってきていたことである。


まあ、できる営業マンの役得といったところか・・・

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