第33話 争奪戦 即転玉



6月12日  午前10時


「富士通ゼネラル995円!6円!7円!よーし売れた!!即転!」


「え、即転できたんですか?」


「ああ、3000万で、15万くらい儲けや。」


「下さい!」


「わたしも下さい約束してた客があるんです。」


「わたしも下さい新規客で使いますから!」


「よし、今日一番手数料頑張ったやつにやるから、がんばれ!!」


きわめて稀はであるが支店内が非常に盛り上がるケースである。


となりの課からも「くれ!」「くれ!」コールの大合唱が始まる。


つまり例の「即転」が出来たわけであるので、ノーリスクで3000万を3日後に支払えば4日後にはノーリスクで3015万で戻ってくる大変結構な商品の完成である。


一日で15万儲かるということは年利に換算すれば大変な数字になる。


当然全員参加型での「くれ」「くれ」コールになるのはご理解していただけると思う。


それを獲得する事により、3000万円分の売り買い往復の手数料が入るは、客には喜ばれるはで真剣になるのも無理はない。


ただ扱う金額が大きい事と、ある程度の説明を要するので、後述の新発の転換社債みたいに、コンパクトには注文がとれない。


それによくよく客の立場から冷静になって考えてみると、たしかに年利に換算すれば大きいが動かした金額の割りに利幅が小さいと感じる。


もっとも、大きな声では言えないが法人客であれば1円も現金を払わなくても「即転玉」を手にする抜け道があるにはある。


たとえ金額が何十億円であろうともこの方法は関係ない。


そのカラクリとは現金があろうと無かろうと3日目に小切手で入金してもらうのである。


翌日の4日目には、証券会社から利がのった分が振込んでくるのでその金で昨日発行した小切手を決済してしまう方法である。


一日のタイムラグをうまく利用した方法で、大きな金額を動かしている法人にとっては、小切手を切るだけでタダで利益だけがいただけるシステムであった。

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