第31話 北京ダッグ養鶏所
6月10日 午後7時
「よーし全員集合、今日はなんとしても投資信託を終わらせよう。食堂に頑張るために天丼を取ってあるので、みんなで食べて来い。15分で戻ってこいよ。そしてその後元気を出して客に電話だ!いいな!!」
「わかりました!!」
天丼とは大きなエビの天ぷらが乗った本来うまい食物であるはずだが、この時の天丼はまったく味もそっけもなかった。
ただ物理的に、ドンブリの中のものを胃袋に運ぶ作業を繰り返すだけである。
しかも十五分の時間制限つきとくるから、みんなもくもくと食べてるだけでそこには、食事中特有の微笑ましい会話もなければ、世間話もない。
ただカチャカチャと食べる音とお茶を飲む音だけが虚しく食堂に響き、たまに話すとしたら
「おい、お前んとこの課はあといくら残っている?」
「ほとんど旗です」
「そっちの課は?」
「全く同じです。悲惨な状況です」
とか、泣きたくなるような会話のみ。
刑務所の囚人でも、もっと人間味のある食事タイムが与えられているのではないかと思った。
まさに「北京ダック」と同じである。
だいたい証券マンは早飯が多い。
理由は相場という足枷があるために筆者も在籍中、まともにゆっくりと昼飯を食べた記憶がまるでない。
昼に訪問先の会社で社員がゆっくり昼ごはんを食べている風景を見て
「あー、これが普通の人間の生活なんだな」
と思ったものである。
食事の話が出たついでに、ある年配の課長がいて常々
「今の若いヤツはなっとらん!かならず昼飯を食べたがる。オレ等の年代の証券マンはいつも昼飯抜きでやらされていたんだぞ!」
と言うのが口癖で
「その証拠にオレが食堂で昼飯喰っているのを見た事ないだろう」
と豪語していた。
たしかにそう言われてみればその課長が昼飯を食っている風景は見たことがなかった。
こいつの人間性はともかく半分だけその意気込みだけは尊敬しようとおもっていた矢先の昼、会社の近所の喫茶店でサボッていた時になんとその課長が焼きソバ定食を食べているのを目撃してしまったのである。
さすがに俺と出くわしてしまって食事風景も見られてしまったわけであるからいつもの元気はどこへやら。
俺と目があった時の課長の一言
「さすがのわしも腹が減っては戦ができんからなあ・・・」
「ハイハイ」
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