第29話 約諾書の印鑑テクニック



6月3日  午後5時


「おい、太田、河本先生のワラントの約諾書の印鑑早くもらってきとけよ。」


「はい!!わかりました、今日中に取ってきます。」


「だいぶ、ワラントの値段が下がってるけど大丈夫か、もめるだろう?すんなり印鑑もらえるか?」


「まかしといて下さい、今日たしか出金の分がありましたね。出金伝票を用意しといて下さい。」



今から説明する話はもう法律すれすれの大作戦である。


相手は値段がほぼゼロに近いワラントを買わされて怒りがピークに達している客である。


絶対その約諾書なんぞに印鑑を押すようなことは万にひとつにもない。


それを

「まかせといて下さい」

と言い切る根拠として、例の出金伝票がある。


つまり客先に行って、まず出金の手続きをする時に巧妙に下に約諾書を敷いて

「先生受領印をいただきます。」

といって印鑑を借り受領書とともに一気に下の問題の約諾書まで押印してしまうのである。


はっきり言ってこれは「大技」である。


お金を受け取る時の人間の神経は妙に、判断がゆるくなるものである。


この作戦はその人間の心のスキをつく非常に大胆かつ巧妙な作戦であるので、小さなお子さまは決してマネをしないように・・・



そもそも証券会社の商品でおそらく近未来においてトラブルが起こりうる可能性のあるものには、すべて約諾書なるものを顧客からいただいて、イザという時に備えている。


実際に証券会社が約諾書を取り忘れたために裁判で不利になった例はいくつもあるから慎重にならざるをえない。


このような約諾書を必要とする商品に「ワラント債」「オプション取り引き」「信用取り引き」「先物取り引き」「外国証券」などがある。


読者の中でもしこれらの商品の取り引きを現在やっていてまだ約諾書を書いていない方は、お金を受け取る際の証券マンの手元に要注意!!

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