第27話 後家さんによばれて投信達成



5月31日  午後5時


「奥様そこをなんとか、あと五千万円枠を取っていますので、何とかお願いしますよ。」


「定期預金にそれくらいはあるから、何とかしてあげてもいいわよ、ちょっと支店長に代わってちょうだい。」


「はい、代わります、支店長、大谷の奥様です」


「支店長、だいぶんお困りのようですね五千万くらいならお手伝いできるけど、新人の木村さんに取りに来てもらってくれます?帰りは遅くなりますよ。書類も持ってきてくださいね。」


これは筆者のいた支店で起こった事ではないが、実際にこのようなやりとりがあって、いつも投資信託のノルマをクリアしていた支店が伝説的に存在した。


投資信託のツメの末期症状としては、支店長みずからが「全員、銀行強盗でもなんでもして金作ってこいよ。」と号令をかけるシーンもあったぐらいである。


カウンター越しに客が聞いたらどうしようか、とヒヤヒヤして聞いたものである。


それくらいのプレッッシャーの中で募集業務を行なっていたのである、女の子のなかには生理が止まってしまう子もいたぐらいである。


とにかくそういう極限下の状態で募集を、おこなうのであるから並大抵の神経ではつとまらないのである。


その足元を狙って若い社員を一晩自由にできる条件で募集の穴埋めを手伝った女顧客が出没するわけである。


そのくらいの犠牲でノルマがクリアできるものなら安いもんだというのが本音である。


逆に男の顧客が女子社員をという要請もあったが、それはさすがにガードして行なわれなかった。


戦争にもルールがあったのである。


余談ではあるが、あの頃の投資信託をもし満期まで持っていたら、半値以下であったと思う。


つまり「つばめ」ほしさに、大量の投資信託を買った奥様の財産もまた半分になった事になる。


木村君の溜飲も少しは下がった事であろう。

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