第26話 大蔵監査前の印鑑かくし



5月31日  午後5時  


「全員集合!明日大蔵の監査が入るらしい、みんな机の中の客の印鑑、預り証などグレーな物は全部自宅に持って帰るように」


証券会社に「監査」と名のつくものがはいるのは全部で、3種類ある。


1 大蔵省監査  ・・・年に約1回位で不定期ではあるがなぜか事前にわかる


2 国税局監査  ・・・いわゆる「マルサ」で当然事前にはわからない


3 自社部店監査 ・・・年2回あって社内なので事前にわかる  


そもそも「監査」とは何であろうか。


ルールを無視した取り引きや、不正に証明書類が使われていないかどうか、顧客との入金、出金のチェック、あるいは印鑑等の不正な預かりがないか否かを調べるためである。


そのため彼らは7~8人で朝一番からやってくる。


いったん来た以上は結構厳しい。


入って来た瞬間に「はい!皆さん、電話をおいて下さいそしてしばらく机から離れていて下さい。」の声で調べがスタートする。


不幸にも事情の知らない新人がたまたま入違いに営業に出掛けようとすると、

「はい!ストップです。営業カバンの中身を見せて下さい」

と全部チェックされていた事がある。


もっとも新人であるので重要な問題の中身は入っておらず、一時間位で無罪放免となったが、鞄の中からエッチな本が出てきて別の意味で市民権を失った。


監査そのものの仕事としては決して侮れなかったが、前日に来るのがわかってしまう点が今だに納得できない。


おそらく本店の内部にもと大蔵のOBか何かがいて、情報をリークしているのであろう。


いずれにしても我々は事前にややこしい物の疎開が完了しているものであるから大船に乗った気持ちで調べを受けられた。


ただ「逆に全く怪しい物が一つも出ないのが怪しい」と言われた年があったが、はたして本音で言ったものかどうか、そっちこそ「怪しい」と思ったものである。


いずれにしても「狐と狸の化かし合い」で常になにもトラブルはなかったように記憶している。


国税監査はこのようにはいかないらしい。


事前にわからないので、裸で調査されるはずであるから、トラブルの宝庫であろう。


筆者の所属していた支店は国税監査の経験は無いのでコメントは控える。


自社部店監査はもう本当に形式だけの物で、本店の監査部の人間が来て一応、形だけの事はやりましたよという程度のものであった。

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