第19話 30分おきの達成率報告
4月30日 午前10時30分
「おい集合だ!岸本いくらだ」
「変わってないです」
「佐藤は!」
「プラス3万です」
「大久保は?」
「プラス5万」
「太田は?」
「プラス3万」
「藤原」
「まだ変わってません」
「加藤は?」
「プラス1万です」
「なんだこの数字は?30分たって全員でたったのプラス12万だけか!おまえらは日本の経済の成長からとり残されているんだぞ。
株式市場が笑ってるぞ、11時までに全員あと20万ずつ作れ!いいな!解散」
生まれてからこのかた、株式市場なんかに笑われた経験はない。
しかし当時は営業課長からそう言われればそんなような気がして必死になって全員が株の注文をとったものであるので不思議なものである。
「木を見て森をみない」と言われるがまさに証券に携わっている人間全員がその状態であったのかも知れない。
営業課長は常に出来高ボードとよばれる大学ノート大の一覧表を持ってわれわれの周りを熊のようにウロウロしながら客に電話しているかどうかを確認している。
電話をせずに株式ボードを眺めているとすぐに
「おい、~さんの あの株上がってきたぞ、20万ほど利益になってるはずだな、電話して売らせろ、そして次の株買わせろ」
と非常に具体性を持った命令が飛んでくる。
よくまあ人の客の持ち株からその買値まで憶えているものだと感心したものだ。
証券マンも最後に電話をかける客がいなくなれば、違う支店の同期の仲間に電話して「オイ、たのむわ」といえば向こうも心得たもので「社長!例の1億の話どうですか。」とかいう芝居に「ハイハイ」といって付き合ってくれたものだ。
逆もまたあるからお互いさまであった。
考えてみれば当時の証券会社の電話代の半分は「芝居」用だったかも知れない
NTTの株がどんどん上がったはずである。
日本のどんな企業もその収益の根幹は営業体である。
自動車業界にしても電気業界にしても、どの業界にしてもセールスの売り上げ重視というのはよくわかる。
しかし30分おきにいくら売れたかを常に申告、確認させられる業界は世間広しといえども証券業界のみではないだろうか。
いかに常に四社のシェアを意識して、また社内においては支店のシェアを意識してよそに負けたくないと考えていたかが窺える。
そのためによその業界とのモラルのシェア争いに大敗を喫するのであったが・・・
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