第18話 立合銘柄とシステム銘柄
4月26日 午前10時
「太田さん、日立1万株800円で買い注文出しとって」
「奥様、同じエレクトロニクスなら富士通にしましょうよ。発行株式数が少ないから値動きもこちらの方がはるかに軽いですよ。それに信用取引残もこちらのほうが少ないので半年後の売り圧迫の心配もございません。会社の株価収益率ももこっちの方がウンといいです。」
「そうね、じゃあおまかせするわ」
女性の方には誠に申し上げにくいが、女性客というのはたいてい難しい四字熟語がでてくると、あっさり落城してしまう傾向にある。
男性客の多くは
「発行株式数はいくらだ」
「信用残をFAXで送ってみせてくれ」
とかやたら抵抗が激しいので
「おまかせするわ」
とまでは決して行き着かない。
知識の多い方の勝ちである。
その話はさておき、このケースの場合「日立」でも「富士通」でも注文は注文であるのになぜあえて太田君は「富士通」にこだわっているか説明したい。
上場株式にはその値決めの方法で二通りの分類がある。一つは「立合銘柄」二つめは「システム銘柄」である。
「立合銘柄」とは、よく証券取引所で各証券マンが手を高くさしだして手話のように指とゼスチャーで銘柄と株数を示しあい、売買を決めていくあれである。
いわゆる今までの普通の株の取引形態の銘柄の事をさす。
以前はすべてこの方式のみであった。
その後コンピューターが発達して株の取引にもコンピューターを導入するケースが非常に多くなってきて、この方式で取引できる銘柄の事を「システム銘柄」とよび、我々証券マンにとっては非常にありがたい存在であった。
なぜならシステム銘柄で売買すればいちいち人間を通じて注文をだす時間が省ける、つまり発注した瞬間にコンピューター内で処理するので取引が成立したかどうかがリアルタイムで確認できるのである。
売買の成立がすぐに分かる利点は二つある、一つは「ある株を売って違う株を買うケース」でまず、先の株が売れた事を確認しなければ次の株が買えない場合にすぐに「売り」が確認できる、二つめはなんといっても手数料がすぐにカウントできるからである。
いまのケースの場合は後者で、似たような銘柄の時はなるべく「システム銘柄」を推薦するのである。
そのことにより、自分の手数料の把握が簡単にかつ迅速にできるからである。
余談ではあるが、証券会社の机のうえのコンピューターには「セールスマン別手数料一覧」という項目があり常に管理職はそれを覗き込んでは数字のふるわないセールスを叱咤激怒するのである。
「立合銘柄」であれば場では売買が成立していてもその一覧には手数料はすぐにカウントされない、だいたい2~3時間のタイムラグでカウントされるが、「システム銘柄」の場合は成り行き注文だと発注ボタンを押した瞬間にカウントされて一覧表にすぐ載る。
つまり管理職の目にすぐとまる事となりいい顔ができるのである。
今から思えばどっちでもいい話のように思える。
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