第8話  国債の消化

3月30日  午後5時


「おーいみんな、明日は何の日か分かってるな」


「わかってます!」


「今月の国債、割国の最終日やぞ、達成率はどうや」


「75%です」


「あと残り2億チョイか、100万ずつ売っていく時間がないな、じゃあ例の方法で、山本社長に頼もう!」


投資信託の締切が終わった、30日の風景である。  


次の我々のノルマは「国債、割債」の販売である。


まったく息つくヒマもなく、次々とノルマがやってくるのである。


このあたりまるでゲーム感覚である。


次々と立ちはだかる敵キャラを倒して次のステージへ・・・


しかし元来「例の方法」とかで処理するものでロクな物はない。


ここでいう「例の方法」とは、2億円分の国債を30日の夕方、山本社長に買ってもらってすぐに31日の朝、すぐに売却する方法である。


結局1日だけ国債を抱いてもらうだけであるが、一応支店のノルマは達成した事になる。


2億の国債の売買によって、証券会社にはいる手数料は約20万円である。  


つまり1日国債を抱くことによって山本社長はこの手数料分の20万の損をこうむることになる。


そして新発のCB(転換社債)などを渡してその20万の穴をうめる約束をする事が「例の方法」というわけである。


毎月、月末が来るたびに、日本国中の各証券会社の各支店でこのような国債(割引国債)の「ころがし」が行なわれ、その数だけ新発の転換社債があてがわれる図式を、国債を発行しているおおもとの日本国大蔵省がはたして知っているのか知らないのか。


多分、知らんだろーなー


話は変わるが、元来国債の売買というのは多分に政治がからんでいる場合が多い。


例えばアメリカの30年長期国債の引き受けを日本の大手生保がほとんど行なっている事実をみても明らかであろう。


アメリカという国がブラジル、メキシコ、ペルーに貸している何千億ドルの借款の肩代わりを何の事はない、海のむこうの日本の生保、損保ひいては生命保険、損害保険を毎月かけている日本国民におしつけているだけである。


何も日本国内でも決して情勢がよくない中、よその国の台所のめんどうをみる必要は全くないわけで、おそらく日米安保のみかえりかなにか、とにかくしがらみのツケであろうが国民にとっては、はなはだ迷惑な話である。


間違いなくアメリカも「『例の方法』で日本に買ってもらえよ!」とか言ってるハズである。

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