第9話 伝説の妖怪「ついたちあきない」

4月1日  午前8時30分


「おい!全員集合だ!早く集まれ!!」


「営業課長、ついたち商いの予約はできてるのか?」


「はい支店長、一課、二課で東京ガスを中心に100万株寄付き予約をとっています」


「株価が1000円の100万株か、手数料はいくらだ」


「10億の買いですのでバラして500万というところです」


「よし、明日の寄付きで買っとけ!」


「わかりました」



投資信託のノルマの消化、国債、割引国債、外債のノルマの消化、が終わってホッとする間もなく今度はついたち商い(初日商い)というくだらない化物が証券マンたちを容赦なく襲う。


証券会社というところは何かにつけアホみたいに縁起をかつぐところであり、この「ついたちあきない」もまたそのうちの悪い慣習の一つである。


つまり各月の1日目は当然その月の初めのあきないであるから、本社サイドにいい顔をするために株式の手数料を気合いを入れて人工的(もっとも毎日が人工的ではあるが)に多くつくる作業である。


しかもなおくだらないことに、筆者在籍中には、相場がよかったため毎月2回の「ついたちあきない」があった。


1回目は前月の26日(つまり、4日後の受け渡し日ベースのついたち)と2回目は、本当のついたちである。


このケースでいう「予約」とは前日のうちに明日の株の売買を客から注文をとる事であるが、まず支店長の顔色伺いがほとんどで、100万株の予約など取れてるわけはない。


ただ単に朝9時の寄付きで「その日おそらく上がるだろう」と思う株をまとめて買うことによって、その日の手数料が読めるだけである。


1000円の株(この場合東京ガス)100万株を寄付きでまとめて買った場合たいていはすぐ1020円で売りの指し値をする。


そして思惑どおり1020円で売り切れた場合は「即転玉」といって、いきなりダイヤモンドと化して営業マンの醜い争奪戦が始まる。(ただしたいていは営業課長は売れた事は言わないで自分の大切な顧客にはめてしまう)


ここで問題なのは売れなかった場合(もっと悪いのは、100万のうち例えば20万株だけ売れた場合、これは超最悪)は、その100万株の処分のために解体作業がはじまる。まるでクジラのようである。


支店内に二課あればまず、2分して各課50万株ずつ、そして各課に5人いれば一営業マンにたいして10万株のいわゆる「仕切り」がスタートする。


この「仕切り」に関してはあまり思い出したくないシロモノなので、後に詳しく述べる事にする。

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