第4話 A、B、C、D客とは
3月4日 午前9時半
「太田さん5番に電話でーす」
証券レディさんからの声。
「おう!今電話中や、誰からや?」
「松田のおばあちゃんです。なんかかなり急ぎの用事みたいですよ」
「ああ、あの客はEやからええわ。後からまたかけるわ」
※
この会話にでてくる、「E」という言葉に注目してほしい。
証券マン太田君は、現在「場中」(証券取引所の立ち会い時間内の事)で別の電話で株の約定の話をしている最中に、松田さんという気のいいおばあちゃんから電話がかかってきたようだ。
この「E」というのは、松田おばあちゃんにつけられたあまり歓迎できないコードネームである。
証券会社は顧客登録のさい、その預り金の大小によって区分分けをする。
当然大きな金額を預けている客が「いい区分」に入ることは言うまでもない。
ただ小さい金額でも、頻繁に株の注文をする客は、「回転客」といって非常に重宝がられる。
そして本来なら例えばDの金額でもCに格上げされて呼ばれる事もある。
呼び名一覧表
特A客・・・上場法人、ないしは10億以上の回転客
A客・・・10億以上、ないしは、5億以上の回転客
B客・・・1億から5億、ないしは1億以上の回転客
C客・・・3000万から1億、ないしは3000万以上の回転客
D客・・・300万から3000万、ないしは300万以上の回転客
E客・・・300万まで
F客・・・300万まででここ数年動いてない客、近未来においても望み無しの客
問題客・・・過去のトラブル、しがらみの事をいつまでも言う客
公衆便所・・どんな仕切り玉でもぶちこめる客
毎日新聞・・文字とおり毎日注文をくれる客
客注客・・・頑固で自分の判断以外では、絶対注文しない客
以上、各証券会社によって呼称は違うと思うが、大同小異であろう。
全く客に対してのリスペクトも何もない。
証券マンにとって、一番有り難いのは、C、Bクラスで何でも勧めたとおりに買ってくれる客であり、その顧客数が営業マンの成績を左右する。
つまり出世も左右するのだ。
逆に毎日注文をくれても、客の判断で売り買いする人は、あまり歓迎されない。
あくまでも営業マンのいったとおりに売買してほしいものだ。
証券マンはわがままなのだ。
かわいそうに松田おばあちゃんに電話がかかるのは、前場が終了した11時すぎであろう。
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