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女の子なんだから、とシスターは気にしては下さいますが。人間としての価値は多少あれど、女としての価値など望んだこともございません。何故かって、自分の姿を鏡で見れば当然分かることですから。
「ゾーイお姉ちゃん、パンもっと食べたい」
「いいよ。あげるよ」
「ゾーイ!ゾーイそれ残す?食べていい?」
「いいよ。お腹減らないし」
孤児院での昼食の時間はいつもこう、口周りにミルクのあとをつけたまま私にご飯をねだる可愛い子を見て。いいよいいよと素直に受け渡し。
食べ盛りの子数人に囲まれるのが、私の食事風景です。一応、この年頃には普通の量を頂いてはいますが、あっという間にわらわら寄られ。残るはほんの少しの食事。どの品目も二口くらいしか残らない程度の量で、私は満足してしまいます。
そう、これが私の醜さを維持してしまう秘訣です。
私はとにかく、肉が無くて細いのです。痩せすぎて醜い、と言うやつで。更に胃も非常に小さく、たった少しだけの量でもほぼ満腹になってしまい。自分でも良く死なないものだなあと思う体質ですが、事実死んでいないからこそ困りもの。
肉はつかないが死にもしない。敢えてこれを自分の強みにしてみようかと、死体の真似や餓死する人の真似なども一時期嗜んでみましたが、亡くなった神父様から「本当に洒落にならないのでやめてくださいね」ととても心配された形相で叱られて以来無闇に強がろうなどとも思わなくなりまして。
この容貌、教会にはあまりに合わない雰囲気だとの自覚はあります。何なら、以前眠れなかった夜に気分転換で町へ散歩に出た時。近隣住民に幽霊と間違われて思い切り叫ばれ、警吏に捕まり事情聴取まで受けて神父様とシスター二人共に頭を下げて頂いたなどという醜い前科までございます。どうやら、真夜中と私の風貌の相性は引くほどによろしいらしく、薄々と勘づいていた私もようやっと「ああ、私は化け物のような女なのだな」と気付いた次第。
そこからは、皆に迷惑をかけたくない一心で活動範囲も極端に狭まり。太陽の光が差さない部屋、しっとりと薄暗い空間の中で針を取り、僅かな明かりでひたすら内職に従事することで生活は安定しました。
思い起こせば、まだ子供の頃は幼児特有の丸さがあったと思います。今では真逆を行くこの痩せよう、外に出ることでこの孤児院がろくにご飯も食べさせてくれない、みたいな誤解を招くことだけは避けたく。子供達の自立の手段のひとつであるおつかいに、自分の分まで頼んでしまう始末。実際に外に出て大ごとになってしまったからこそ、昼間でも外出することを躊躇してしまい。
……気が付けば、暗がりがいっとう似合う、幽霊のような枯れ木女。暗い部屋で根を張り、日がな一日針を握るという生態をするようになりました。
「ゾーイ、あんたそんなんだからいつも死にかけみたいなんだろ。少しは無理して食わないと本当に心臓止まるぞ」
「社会的には既に死人だから大丈夫だよ、レイチェル」
「あんたは大丈夫を正しい意味で使わねえなほんと」
二歳下、孤児院の子供の中では私を除けば一番年上の男の子…レイチェルは、彼等子供達のリーダーとして積極的に動き。私と違い、外で仕事を見つけて既に働いている偉い子だ。
元々細かった体が更に細くなり、太陽の下に出ない時間が多くなると自然と体力も減ってきて。ふらふらするのが常になってしまっているような気もしますが、何とか役割を頂いて過ごせるだけでこれ以上無い幸せなのでしょう。赤ん坊の頃に教会前に置いていかれたどうしようもなさに比べれば、仕事もあるし屋根もある場所で食事やお風呂も入れて寝床もあるのですから。
「……後ろ、肩のとこ。ほつれてんぞ」
「ん?ありがとう、後で直しておく」
レイチェルにそう言われ、指先で確認すれば確かに右肩の縫い目が解けていた。
私が今日袖を通すのは、ずっと前安値で手に入れた、店で売っている一番細いサイズの女性服を更に絞って縫い付けた衣服。それでも、肉が足りなさすぎて勝手に通気性が良くなってしまう。
自分の分は基本自分で一から作らないと、市販でもなかなか寸法があわない。まあ、困ったことに、服泣かせ。服に着られているのもいつものことです。
「今日手芸屋に寄るけど。何か買うもんあるか?」
「最近日中温度下がってるから、厚手の毛糸がほしいな。編み棒はあるから大丈夫」
「そっか、……なんか、いつもありがとな。こいつらあんたから貰うことばっか慣れてるから」
「まあそんな改まらないで。皆がいないと私も生きられてないから、お礼するのはこっちだよ。いつもありがとう」
平和でおとなしい小さな町。その一角にあるこの教会と孤児院に、こんなどこにでもありそうないつもの風景と。
……私の運命を変えにこそりと忍びよっていた存在は、今思えばこの時から既に動いていたのだと。これよりたったの数日後、王城で知らされることになるのです。
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