第7話 ヒペリオン王国 入国

貨物船のブリッジに本間が用意した白旗が上がってから10分後。


先ほどの激しい戦闘を生き残ったヒペリオンの兵士たちが多数銃を構えて本間たちが立て籠るブリッジを完全に包囲した。


しかし降伏したといっても本間を含む戦闘員7名の凄腕を現実に目の当たりにした兵士たちはいつまた彼らが気が変わって暴れだすかも知れないのでまずは暴力には縁のないエリートたちを人質に取った。


「さあ、ミスター本間と7人以外の方はこちらへどうぞ」


「どこへ連れて行くんや?」森の親父が聞く。


「いえ、あなたがたは反乱の首謀者ではありませんので元の特別室にお戻りくださるように内務大臣から指示を受けています」


「では、反乱首謀者の俺たちはどうなるんだ?」本間が両手を頭の後ろにつけたまま聞いた。


「ミスター本間と7名は申し訳ないのですが、別室にご案内します」少尉クラスの小隊長が答えた。


「やはり彼らは殺すのか?」富士が尋ねる。


「おい、殺すなら俺だけにしろ、こいつらは俺の指示で動いただけだ!」本間が十兵衛以下の命乞いをする。



「ご安心ください、大臣からはそのような指示は聞いておりませんので・・・ただし今迄以上の厳しい監視をつけさせていただきます」


「その言葉、信じてもいいんだな」


「はい、そのかわりもう絶対に暴れないように。今回の戦闘で私の大切な部下がかなり死傷しましたから」


「分かった、約束しよう」


「さあお前たちこっちへ来い!」本間を含む7名はアーマライト16を持った大勢の兵士に小突かれながら階下の貨物室へと連行された。


「ホンチャン、また会えるかな?」別の方向に連行されていくタニヤンがか細い声で聞いた。


「わからん、しかししばらくは奴等の言うとおり頭を冷やしてくるわ」


エリートたち8名は首班ではないということでドアが壊された元の特別室に入れられていった。

しかしもちろん各部屋に見張りの歩哨は先ほどよりも厳重につけられた。


本間と鈴木十兵衛率いる7人のチームはもう二度と反乱ができないように貨物船の一番奥にある営倉にぶち込まれた。


各部屋が独房となってる営倉は二重の鉄製のドアと頑丈な鍵がかけられておりたとえ本間であろとここからの脱走はかなり厳しい造りになっていた。


さらにドアの前には選ばれた屈強な戦士が複数見張りに着いたのである。


医務室


貨物船の医療施設では先ほど本間に猿轡をされて縛られた船医が担ぎ込まれた各兵士の傷の状況を確認していた。


「いやー、まったく危うく死ぬところじゃったわい。しかしあのホンマという男は凄い殺戮マシンじゃわい」


船医は完全に死んでいる兵士は廊下に寝かせて、傷ついて横たわる兵士たちを順番に触診していく。


負傷者の手当てが終わった船医は次に死体を順番に確認していく。


「しかし大したもんだ一瞬にして急所を突くとは。死んでいった兵士には悪いが彼らは死んだことすら気づかないほどの早業で倒されている」死体を確認して船医は唸った。


「殺すものは苦痛を与えずに即死、生かすものは敢えて弾を貫通させて骨を損傷させていない、これは完全にプロの仕事じゃわい」


船医は本間とそのチームの仕事に感心したように傍らの看護師に言った。


高知沖で発生したこの反乱事件の後、船長、航海士たちが一時退避していたイージス艦から乗船してきて貨物船は順調に航海を続けてフィリピン近海の南シナ海に入ってきた。


本間の入った独房の丸窓からは南国の温かい風が吹いてくる。



ヒペリオン王国 入国   


それからおよそ5日間かけて、本間たちを乗せた貨物船は、4隻のイージス艦に護衛されたまま南シナ海のヒペリオン王国 本土「エウロペ港」に到着しようとしていた。


エウロペ港は主に7つの大きな島で構成されたヒペリオン王国の中の一番大きな島にある。


日本時間で言うと朝9時ぐらいであろうか、南国の太陽がまぶしく照りつける中、貨物船の接岸作業を丸窓から眺めながら


「ついにアウシュビッツ到着か・・・」と本間はつぶやいた。


「全員外に出ろ!」

銃を構えた兵士たちが営倉にいる本間と反乱チームをアーマライト16で小突いて甲板まで連れていった。


甲板にはすでにエリートたちも揃っていた。


「やー、ホンチヤン。ちょっとスリムになったな!」タニヤンが笑いながら兵士たちに囲まれた本間に声をかけた。


「まあな、毎日サウナに入っているような環境やったからな」頭をかく本間。


「やっぱり我々は全員刑務所行きですかねえ?」と一番若い北川が泣きそうな顔で聞いた


「わからへん、まあ相手の出方次第ではもう一戦交えようや!」


岸壁が近づいてきた。

貨物船から太いロープが投げられて桟橋に巻きつけられた。


白い布をかけられた兵士の遺体が、次から次へと桟橋に運びだされるのを見て「あんだけの兵士を殺したんや、まちがいなく刑務所やろうな」と桐生が答えた。


「では、それならなぜわざわざ特別船室でもてなす必要がある?全員ホンチヤンと同じように営倉入りになるはずだが・・・」と東野が聞いた。


さまざまな憶測が飛びかう中、貨物船はゆっくりと重装備の兵士と装甲車がとりまく桟橋に接岸した。


「ガラガラガラ、ザブーン」船首の錨が下された。


桟橋には、ヘリコプターで先回りしていた内務大臣のフェーペが迎えに来ていた。


桟橋に掛けられたタラップから全員が降りてヒペリオン王国の大地を踏んだ。


貨物室の別の出口からは200名の労働者たちが降りて用意された大型バスに乗せられている。


十兵衛以下の戦闘員チーム7名も同じバスに乗るように指示された。


タラップを降りた本間以下のエリートたちにフェーペは近づいて言った。


「お疲れ様、皆さん。お待ちしておりました。ミスター本間、よい航海でしたか?」手錠を掛けられた本間に声をかける。


「アホ、殺すんならさっさとせんかい。せやけど他のやつらは関係あらへん、助けてやってくれや!武士の情けや!」


「ハッハッハ、まだあななたたちは御自分の立場がわかってないらしい、おい!早速皆さんを宮殿にご案内しろ」


「ハッ」兵士たちが敬礼をして車を回すように指示を出した。


「おい聞いたか『ご案内』やて、なぶり殺しすんのもたいがいにしてほしいなあ」


しばらくして黒塗りの高級車が5台本間たちが並ぶ前に到着して運転手がドアを開けた。


9名が大型のリムジン5台にそれぞれ2人ずつ分乗して宮殿に向かった。


手錠をした本間だけが1人で、内務大臣フェーペと同乗であった。


「おいフェーペのおっさん、下の200人の労働者はバスに乗せられたようだが何処に連れて行った?」


「わが国の最高級ホテル『ウラノス』にご案内しました。今頃は到着しているころでしょう」


「ほんまかいな!その言葉、信じてええんやろな・・・」


「どうぞ、ご自由に」


椰子の木が並ぶ街道を走り5台のリムジンが連なってはるか先に見えている王宮らしい建物に向かって走る。


10分ほど走ったころにリムジンは速度を落としてゆっくりと宮殿の入口に近付いた。


宮殿の正門には20名ほどの衛兵が並んで銃を立てて出迎えた。


各リムジンは窓を開けて身分確認を済ませるとゆっくりと自動の門が開き、さらに車は奥へと進んだ。


宮殿は東洋圏とイスラム圏と混ざった中間様式で、ちょうどインドの有名なタージマハール宮殿に酷似していた。


その造りは石油と天然ガスを輸出して稼いだ金にあかしてふんだんに宝石をちりばめた様式である。

まさに荘厳な黄金宮殿といったところであろうか。


全員が車窓から見えるその広さと豪華さには圧倒されていた。


「これは、写真で見たことはあるが噂以上のシロモノやなあ.....いったいどこにこれだけの金があるんや?」建築家の相原は仕事上興味ありげに車の窓を開けた。


全員が宮殿の大理石でできた正面玄関でリムジンをを降りた。

その後衛兵に導かれて真っ赤な絨毯の上をどのくらい歩いたであろうか、大きな扉の前で案内の衛兵が立ち止まった。


「どうぞ、この部屋にお入りください。念のために一応身体検査はさせていただきます。」複数の衛兵は全員の体を触れながら手際よくボディチェックをしていく。


本間の服からはどこに隠していたのか、まだメス、注射針、ピアノ線が出てきた。


「あ、これは大事なもんやから後でちやんとかえしてや」


ケロッとしている

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