第6話 降伏


本間は応戦する手を止めながら「ちょっと待て!おーいお前たち本当にヒペリオン兵か?」大きな声で弾が飛んで来るほうに叫んだ。


「その声はテリーさんか!無事だったんですねえ!」聞きなれたヒロシの声が返って来た。


しばらくぶりの再会であった。


「ヒヤー、危うく同士討になるところやったがな」階下から続いて十兵衛がやってくる。


点滅する赤い非常灯の下で再開した2人はガッチリ握手した。


「ほい!テリーの大好物、コルト・ガバメント45口径を持ってきてやったで」


「オオッ、さっきからかったるい銃ばっかりで嫌気がさしとったんや、おおきに。やっぱり銃は45口径に限るわ!まず破壊力が全然ちゃうわ」


「ホンマでっかー?テリーさんやったらどの銃を使っても破壊力は一緒ちゃうんですか?」とヒロシが茶化す。


「アホンダラ、それよりあそこにエリートさんたちが集まっているからあんじよう援護しててくれや、なんといっても彼らは日本の頭脳やさかいな。オレは今からこの上のブリッジに行ってさっきのジジイやっつけて、あとついでに無線機を押さえてくるわ、十兵衛付いてこい!」


そう言って本間は十兵衛を引き連れて急いで階段を駆け上がった。


しばらくして階段上のブリッジのドアのところでまた手榴弾の大きな爆発音が聞こえた。


「ドッカーン!」

パラパラと天井から埃が大量に降ってきた。


「今日はテリー大活躍やなあ」

「ああなったらもう誰にも止められへん」

「なんと言っても『一人・一個中隊』やからな」

「まったくや!」

「ハハハ!」

一同、今日初めて緊張が解けて顔を見合わせて笑いあった。


ブリッジのドアが手榴弾で破壊された。


本間は今手渡されたコルト・ガバメントを構えてドアを蹴破って入ったがブリッジ内を見渡しても人はいなかった。


いつのまにか貨物船は自動操縦で動いていたのである。


「畜生、お山の大将はどこいきやがったんや!こら!フェーペのおっさん!はよ出てこんかー」

本間が大声で探し回るがもはやもぬけの殻であった。


「メーデーメーデーこちら日本の本間、だれぞ聞いていたら応答してくれ。メーデーメーデー!」レーダーの横にあった無線機のマイクをつかんで本間は大声で怒鳴った。


しかし応答がない


「あかん電源コードが切られとる・・・これでは外部に連絡はつけられへん・・・」


誰も操縦するもののいない貨物船はすでに高知沖の太平洋上に出ていた。


時折大きな波によって船が大きく傾く。


そのころ下の貨物室では、残された守備チーム3名が命令どおり必死にドアを死守していた。

入り口付近は、すでに銃撃戦で30名くらいの兵士の死体がころがっていた。


「だんだん弾がのうなってきたで、上はあんじょううまくいっとるかのう?」

「まあ、いつもどおり上を信じて死守しようや!」

「しかし敵さんの抵抗もだいぶ減ってきたで。そう思わへんか?」

「そういえばそうや、さっきから援軍がけえへんようになった。」


3人が心配そうに顔を見合わせていると、いきなりスピーカーから船内放送が入った。


「諸君、お見事です。さきほどお会いした内務大臣のフェーペです。まことに申し訳ないが一足先にヘリで脱出させてもらいました。先ほどから船内カメラで皆さんのご活躍はすべて見せていただきました。さすがに本間さん。ウワサに違わずスゴ腕ですねえ、感心しました。しかしみなさん窓の外をご覧になってから凱歌をあげて下さい」


「なんだと?」


本間と十兵衛がブリッジから見上げると二枚翼のヘリがホバリングしているのが見えた。


「畜生!」本間が操縦パネルを叩いた。


「それでは皆さんのヒペリオン王国へのお越しを心からお待ちしております。ちなみに皆さんが今戦った兵士はヒペリオン陸軍大学を今年卒業したての新兵です。彼らの卒業試験につきあっていただきありがとうございました」


「なんやと!」

「すべて計算づくだったのか?」

「どうりで弱い兵隊やったわけや」


驚きと落胆で全員が窓の外を見た。


その直後真っ暗の海上に「ヒューン」と照明弾が上がり貨物船のまわりがあたかも真昼のように明るくなった。


「あかん!終わりや・・・」そこに浮かんでいるモノを見て本間がうめくように言った。


「最新鋭イージス艦や、しかも4隻・・・」


本間がそう言ったのが合図になったかのようにいきなり4隻のイージス艦の主砲塔と魚雷発射管がゆっくりこちらを向いた。


「テリー、何を弱気ゆうてんねん!おまはんらしくないなー、最後まで戦おうや!」と海軍の軍艦の知識が薄い十兵衛が言った。


「十兵衛、あいつら本気や、あの60センチ魚雷をくらっては薄っぺらい装甲のこの船の船倉に大穴があく。ブリッジにいるわれわれはともかく、下のみんなを巻き添えにはできへん・・・すぐに降伏や」


「しかし、せっかくここまで戦ったんやから・・・」と後からブリッジに入ってき相原が未練がましく本間に聞いた。


「おい、森のオヤジ、専門家やろ?やっこサンの装備、みんなに説明したってくれ」本間が続いて入ってきた武器のプロの森に催促した。


「よっしゃ、最新鋭イージス艦、速力35ノット、排水トン数6500トン、主砲20センチ砲2門、対空ミサイル20基、12、7センチガトリング砲10門、60センチ魚雷発射管6門、あと『ハリネズミ』ヘッジホッグが積んであるはずや、あれはようさん、うちが売って儲けたやつや」


この説明の後、ブリッジに白旗が上がったのは3分後であった。


次の日、西成区のドヤ街では働きに行ったきりリーダー各の9名を含め約200名の労働者が帰ってこないので町中大騒ぎとなった。


「リョウサン、森のオヤジ、ホンチャン、タニヤン、ヒデサンみんなどこいったんやあ!」

「北川の坊主、ドクター、トンサン、ミスターもおらへんようになってしもうたがな」


この大量失踪事件に関しては翌日の関西版の新聞に小さく記事が載っただけであった。


「大阪市西成区で多数の労働者が集団移住か?西成区住民が多数よその地域に出稼ぎに行った模様」


なぜか警察もマスコミもその原因追求には極めて消極的であった。

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