第5話 本間の抵抗 2
銃やナイフ、手榴弾などを身に纏った本間は2、3回屈伸運動をした後に
「とりあえず第一次作戦は終了や!あ、これはええわ、船内の地図があったわ、わけわからん字は読めへんけど全部船の様子がのっとるわ」と兵士のポケットから船内地図を取出した。
本間は地図を見ながら、モールスで下の十兵衛に対し、貨物室から自分のいる特別船室までの階段通路は2ケ所である事と外に出る出入口は1ヶ所である事を伝えた。
下の貨物室でも消灯になったことで十兵衛は「そろそろ本間の動きが始まるな」と考えており、6人の仲間にも手話でそう伝えた。
「ジュウ、リョウカイ」
十兵衛のこの返事を聞いた後に本間は躊躇なく堂々と廊下に出た。
廊下には本間と同じ服装の兵士が、あとの8つの各部屋の前に並んでいた。
「おい、大丈夫か?」と隣の部屋担当の兵士が本間とは知らずに心配して聞いてきた。
暗いため本間を味方と思っているらしく、何も怪しまずに近づいてきた。
「ああ、なんとかな!」といいながら、ゾリンゲンナイフをその兵士の延髄に深々と差し込んでギュッツと回す。
この快感を味わうのに1秒はかからない。もちろん口を押さえてあるから音は一切たてない。
他のドアの前にいる兵士はざっと廊下にだけでも7人、階段の上と下を守る兵士を足して約10人はいた。
「10人か・・・ちょっと仕事やなあ。まあ、頑張るか!」といいながら首にナイフが刺さり倒れこんだ兵士を部屋の中に担ぎこんで
「オーイ誰か来てくれ!」と大声で叫んだ。
「どうした?」
「何があった?」
「ダダダッ」と、大きな足音をたてながら同じ階層の兵士全員が本間の部屋に集まってきた。
「大きな声を上げて、いつたいどうした?」
と本間の部屋にはいってきた彼らの足が、無用心にもドアの空間にピンとはられた手術糸を切った。
直後、「ドッカーン」という大音響とともに集まった兵士全員が飛び散った。
手術糸の先の手榴弾が爆発したのだ
「パイナップルちゃんお仕事ごくろうさん」と、最初に始末した4人の死体の下から本間が這い出てきた。
「人体は手榴弾の遮蔽物にもなります、レッスン終わり。って、おい聞いとるか?」
もちろん四散した死体は本間の言葉を聞く耳を持たない。
この爆発音は、同じ階層はもちろん下の貨物室でも十分聞こえていた。
爆破と同時に船内にスプリンクラーが作動して警報のサイレンが鳴りはじめた。
貨物室では赤い非常灯が点滅し警報機が鳴る中「よっしゃ、テリーがいよいよ始めよったぞ、お祭り開始や!いいか、全員配置につけ!」と十兵衛が叫んだ。
「おう!」
「よっしゃ!」
と6人がバールやスパナなどの武器を手に入れて各自の配置につく。
「おっさんらは死にたくなかったら絶対バリケードから顔を出すなよ!頭ふきとばされるでー!」
けたたましいサイレンの中、非戦闘員のドヤ街の連中を、貨物室の一番安全な所に集めた。彼らをバリケードを囲んで避難させながら十兵衛はテキパキと部下に指示を出す。
「おーいゲン、ドアをフォークリフトで破壊しろ!ロクさんいつも持ってるパチンコ玉を俺にちょっと貸してくれな」と指示をだす。
ゲンは本名、前田源次。
もと自衛隊レンジャー部隊の出身であるだけに、そのすばやい身のこなしで、用意してあったフォークリフトのギアをバックに入れて頑丈な鉄製のドアに向けて疾走させた。
フォークリフトは前進よりバックのほうがギア比が大きくトルクもでかいのでドアにぶつかった時の衝撃は大きい。
「ドッカアーン」という轟音とともに鉄製の大きなドアが外に向かって開放された。
見張りの兵士2人が吹っ飛んだドアの下敷きになって死んでいる。即死である。
さらにバックで疾走させたリフトの荷台には、火のついた段ボール箱が乗っていたのでドアの入り口一面が明るく見渡せた。
暗やみの戦闘では火を使うのが有効である、人間の本能で全員の目が一時的に火の方に釘づけになるからであった。
さぞかしドア付近は大勢の見張りがいると想定していたのであるが、応戦してきたのはたったの5人であった。
大方、本間による上の爆発騒ぎで急遽集められていたのであろう。
「なんや、さみしいお出迎えやなあ、この人数やとオレ一人でええわ」といって、十兵衛はロクさんから貰った20個ほどのパチンコ玉を一斉に兵士めがけて投げ付けた。
即席ショットガンである、3人の兵士の顔面にまともに当たった。直撃を免れた残り2人の兵士が必死でウージーで応戦してくる。
「へたくそやなあ、どこ狙ってんねん!とにかくまずは全弾撃たせろ。そして弾倉を替える時がチャンスだ!」
このイスラエル軍正式採用銃のウージーというのは、発射速度が速い反面、弾倉の弾がなくなるのもまた速い。
全弾を撃ち尽くすまでにかかる時間はわずか10秒ほどであった。弾が飛んでこなくなった。
そのわずかなチャンスを、十兵衛の部下たちは見逃さなかった。
ヒペリオン兵はよほど訓練されてないせいか、弾の詰め替え作業に手間取っているようだ。しかし給弾の途中に、2人の兵士の命はすでになかった。
燃え上がるフォークリフトの影に2人、十兵衛の部下が潜んでいたのである。
燃える火に目を取られてフォークリフトの下に張り付いていたこの2人の存在は彼らからは見えなかったはずである。
背後ろから給弾作業をしている兵士に忍び寄った2人はまるで赤子の手をひねるように、彼らの首を簡単にへし折っていたのだ。
「よっしゃ、とりあえず作戦完了や!上からの援軍がやって来る前に急いで武器の確保や!」
十兵衛のその言葉を待つ迄もなく、部下6人の手にはすでにヒペリオン兵の持っていた武器が全てが調達されていた。
「このアホ、下手くそのくせに全弾使いやがって、もったいない!」とマッキーと呼ばれる部下が既に死んでいる若い兵士の頭を蹴飛ばした。
「よっしゃ、全員調達した武器の種類と数の報告!」
「はい、ウージー5丁、アーマライト2丁、パイン14個、ナイフ14、コルトガバメント2丁!以上です」
「よし、各自好きな武器を手に取れ!上のテリーは銃が無いかもしれんので、このガバを貸してやろう」
「本間さんのガバ撃つ姿見たいっすね!」
「ああ、しびれるで!よし、マッキーとゲン、ヒロシはオレと一緒に来てくれ、残り3人は貨物室のおっさんたち連中の援護だ、とにかくこのドアを死守してくれ。テリーのモールス信号報告によるとここしか出入り口はないようだからからな!」
「了解!」とチームは二手に分かれた。
「パインとウージーは全部置いていくから頼むわ、弾のムダ使いは厳禁やで。お前は昔からようムダ弾使いよったからなあ」
「えっ、それじゃあ十さんたちの装備は?」
「ワシはナイフだけで結構。なあに途中で兵士やっつけて現地調達するから心配せんでもええ」
タラップを降りてくる複数のヒペリオン兵士の足音がした。
十兵衛の手の振りで2つのチームはおのおのの持ち場に向かって走る。
「よっしゃ、さっそくお客さんの登場や!ヒロシ、なるべく殺すな、足を狙え」
「OK、OK」ガムを噛みながらヒロシが狙う。
タラップからは、まず降りてくる兵士の足が見える。ヒロシはその足を丁寧に狙って撃ったので、五~六人ほどがバラバラッとタラップから落ちてきた。
これを見た後続の兵士は躊躇しているのかなかなか降りてこない。
「ヒロシよう当たるようになったな、ホナここは宜しゅう頼むで!死守してや!」といって十兵衛は3人を連れて別サイドのタラップから二階に掛けあがっていった。
一方特別船室の廊下では
戦闘服を遮蔽物に使った兵士の血糊で染めた本間が銃を構えて誰も抵抗する者がいない廊下を大股で歩いていた。
「オーイ、エリートさん達よー、パーティーの時間でっせー」と本間が廊下の両サイドの部屋の鍵をウージーで撃ちまくっては壊していった。
「あの爆発の主はやはり本間さんやったんか、大きい音でビックリしましたやんか!早速謀反でっか?」と脳外科医の前島がキョロキョロして出てきた。
「はい、ドクター、パーティーの参加賞ですわ。扱い方は簡単やさかいお医者さんでも使えまっせ」とウージー機関銃を手渡す。
「あ、あかんて、わしは銃なんて撃った事あらへんし人殺しは堪忍やで」
「あっはっは!誰でも、最初は1回目なんや!ええか?コレが引き金、引くと、弾出る。それだけや、簡単やろ?」
「そんな、簡単に言われても・・・」しげしげと渡された銃を眺めながら前島はつぶやいたが、本間はそんな事は一切構わずにバリバリ鍵を壊していく。
「よっしゃ、次はだれの部屋かな、オッ、ハーバードの相原さん。きのうの焼酎はどうもごっつあんでした。美味かったなー!ハイこれお礼ですわ」本間は相原にベルギー製のベレッタを手渡す。
「さすがはホンチャン、魚が水を得たように大暴れやなあ!わたしは、銃はアメリカで何度か撃った経験がありますのでご心配なく」ゆっくりベレッタの遊底を引きながら相原が言った。
「生兵法ケガのもと!ホンマはそういうのが一番心配や。ハイ、サッサとドアの鍵を撃っていって下さいよ、中で皆さんお待ちかねでっせー」
その間、何人ものヒペリオン兵が物陰から出てきては本間たちを狙って撃ってきたが、本間の正確な斉射でもののみごとに沈黙させられてしまった。
廊下に無数のヒペリオン兵士の死体が転がる中「バリバリバリ」と発射しては順番にドアを蹴破っていく。
全てのドアが開放されて9人が全員揃った時、背後で複数の足音が聞こえた、「あかん、はよふせろ!物の影にはいって!」
その言葉が終わらないうちにいきなり、ウージーの発射音がした。
さっきまでの攻撃と比べるとかなり正確でムダ弾が無い。
明らかにさっきの連中とは練度が違う。
しかも物陰に隠れた本間たちを死角から跳弾を利用して確実に撃ってくる。
クッションボールの理論だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます