フランス対ロシア
「よしピエール艦長ここでよかろう。艦を停止しろ」
巡洋艦デカルトの艦橋ではジョンキエルツがピエール艦長に指示を出した。
デカルトは戦艦スワロフと反乱軍の乗った石炭補給船の間に割り込むような形で入ってきた。
「ロジェストウエンスキー閣下、これは一体どういう騒ぎですか?いきなりわが領土の湾内でベトナム船に対して砲撃を始められてはフランス海軍として見逃すわけにはいきません」
「これはジョンキエルツ少将、無様な話であるが見ての通りわが水兵による反乱が起こってしまった」
「それはロシア海軍内の問題です。それならばカムラン湾外に出てお好きなようにドンパチをやって下さい」
「内部の恥をさらすようで申し訳ない。今反乱軍の首謀者と交渉を行っているのでしばらくお待ち願えないだろうか」
「そこに見えるのはフランス海軍の司令官とお見受けいたします。お話しがあります!」
補給船からスピーカーの声がデカルトに届いた。
「なんだ貴様は?」
「ロシア帝国海軍少尉 ロマノフと申します」
「なんとロシア軍の仕官がこの反乱軍の首謀者なのか?」
「はい、今詳しい事情を話す猶予がございません。我々の要求はここフランス領インドシナへの亡命です。閣下お力を貸してはいただけないでしょうか?」
「このわたしがか?」
「はいそうです、もし可能であれば我々は今すぐに人質を解放してこの騒ぎを収めます。またバルチック艦隊も閣下のご希望通りに0時をもって湾外に出ることができますがいかがでしょうか?イギリスと日本から猛抗議が来ていることは存じております、このあたりが落としどころかと思いますが」
理詰めのロマノフの言葉にジョンキエルツは顎ひげをなでた。
「パン、パン、パン」
そのときに戦艦スワロフの艦内で銃の音が聞こえた。
「ロマノフ少尉何だ、あの銃声は?反乱軍はスワロフの艦内にも兵を配置しているのか?」
「いえ、閣下、あれは別働隊のベトナム人たちによる銃声です」
「わが領民のベトナム人が戦艦スワロフに入り込んでいるのか?それは一大事だ」
「そうです、見ての通りロシアの戦艦はベトナム人の漁船を躊躇なく沈めました。しかもスワロフの艦内では同じベトナム人が村長の救出のためにロシア兵と戦闘しています。こうなれば決してあなたのフランス軍も無関係とは言えませんでしょう」
さらに詰め寄るロマノフに
「ううむ・・・わかった亡命は認めよう。それで矛を収めて全艦隊が即刻湾外に出て行ってくれるのなら安い話だ。それで何人が亡命を希望しているのか?」
「閣下、亡命の人数はわかりません、それは今から募るところです」
「今から募る?」
「はい、しばらくお待ちください」
そう言うとロマノフはスピーカーの音量を上げて全艦隊が聞こえるような音声にした。
「おうい!すべての艦の乗り組員たち、聞こえているか!今から行く戦場におまえたちの未来はない。たった今フランスから亡命の許可を得た。亡命したいものがいれば今すぐに甲板から海に飛び込んでここまで泳いでくるように。時間は15分だけ待ってやる、急げ!」
ロマノフのこの声に船団を囲む艦隊の甲板上はにわかに色めきたった。
「ドボン!」
「ドボン!」
すべての艦のまわりに甲板から水兵が飛び込んだ水柱が何百という数でかぞえられないほど立ち上がった。
飛び込んだ水兵たちは中心の補給船に向かってまっずぐに泳いでくる。
※
一方スワロフ艦内
副砲室に繋がる廊下ではロシア水兵と15丁の銃を拾ったベトナム人たちの銃撃戦が繰り広げられていてお互いに死傷者が出ていた。
素手の格闘は手馴れたベトナム人であるが数の多い、しかも銃を持った正規の軍隊との戦いは分が悪く時間とともに押されてきていた。
「おい、タン時間稼ぎも楽じゃないな。こんなことをいつまで続けるんだ?」
「そんなことはロシア兵に聞いてくれ、とにかく外の交渉が終わるまで持ちこたえるんだ」
銃撃で負傷した仲間のベトナム人を庇いながらタンは言った。
「しかしここいらが限界だぜ!弾も尽きてきた」
そのとき背後から新たなロシア兵がやってきてさらに銃声が聞こえてきた。
「なんだ、新手の部隊が加勢に来たのか?こいつはいよいよ詰みの状態だな」
しかしその銃声でバタバタと倒れていったのは今まで戦っていた正面のロシア兵であった。
「なにがどうなっているんだ?」
「あいつは、プリボイ!」
新たな戦力の先頭にたって指揮をしているのは死刑囚のプリボイだった
「すまねえな、ベトナム人。少し到着が遅れたみたいだな」
「ああ、プリボイか!またおまえさんに助けられたな!」
「さあ、ここはおれたちフィンランド人に任せて甲板に上がってすぐに脱出しろ」
「しかしまたすぐに新手が来るだろう」
「心配するな。それはおれたちが引き受ける、人質は無事救出したのだろう?だったら任務終了だ、さあ早く行くんだ」
負傷したベトナム人を背負ってタンとカーは甲板に続く階段を上がっていった。
背後では新たなロシア兵が到着したのであろう銃撃戦の音が響く。
「ようし全員おれたちの船がつけてある反対側まで走れ」
「わかった」
「ところで、じいさんはどうした?」
「あそこの炭の後ろに隠れているはずだ」
「じいさん、いるか?もう出てきていいぜ!」
南地区の若い漁師フンとズンが出てきた、どうやら2人とも無事のようだ。
「おう、おまえたちか。心配しとったのじゃ。怪我をしているのもいるが大丈夫か?しかしまた派手にやりおったな」
「ああ、話はあとだ。おれの背中に早く乗れ、早くここを脱出するぞ」
子供が父親の背中に乗るようにズンはタンの背中に乗っかった。
「けが人から先におろせ、いいなゆっくりとだ」
20名の部下たちが順番にロープを伝って降りていく。
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