泥混入作戦 開始

石炭補給作業4日目


「今日も揃ってるようだな、4日目になるがいやに元気そうじゃあないか。結構結構。昨日の成果は昼間のベトナム人2チームで1200トンの補給が出来た。夜間は我々ロシア人たちで同じく2500トン、合計37000トンだ。お前たちの午前のサボタージュで少しペースが落ちてきているが、とにかくやりきるように!以上」

補給状況の書かれたノートに目を落としながら朝の日課であるチャノフ大佐の言葉だ。


「なんかカー今朝はおまえ変だなぁ、昨日とは違う顔をしてやがる。にやにやしやがって何かいい事でもあったのか?」

マカロフ大佐が疑問をぶつける。


ついさっきまでの泥運びの作業を終。えたばっかりで一睡もしていないタンやカーも含めて全員の顔からは笑みさえも浮かんでいた。


「いいじゃあねえか、元気ってえのは?それとも何かいあんたらはおれたちに元気に作業されたら困るのかい?」

カーが答えた。


「いや、そうじゃない。しかしなんか変だな。まあカーお前は普通の人間じゃないから判断に苦しむがお前の部下たちが読めねえ。まあなんでもいいぜ、仕事してくれるならよ」


「ようしシン聞いてのとおりだ、早く仕事にかかろう。この駆逐艦てのは艦も小さいし倉庫も戦艦に比べると小さいから楽だぜ」


「わかったぜカー兄ぃ、おうみんな!さっさと運び込もうぜ!」


「おう!」


駆逐艦の給炭作業は戦艦と違って甲板から、俵ではなく竹で編んだかごに入れた石炭を背負って石炭庫に持ってくる。石炭の中身は彼らの夜間から先ほどまの作業で半分が泥であった。


「おう、見ろよこの石炭」


「ああ、間違いねえ。さっきまでおれたちが運んだ泥が混じっているな」

石炭庫にぶちまけた石炭を踏み潰してカーがほくそ笑んだ。


「こら、そこ!何をこそこそ話をしている」

マカロフの声が飛ぶ。


「何でもねえよ」


「口より先に手を動かせ!」


「わーってるよ!よーし野郎ども、どんどん持ってこい!今日はやりがいがあるぜ!」


今まで以上に全員がやる気をもって作業したので今まで以上に効率があがった。


「ほっほっ」

「ザッザッ」


テンポのいい労働を見てマカロフが褒めた

「なんだ?おまえら、やりゃあできるじゃないか!」


「まあな、これがベトナム人の実力よ!」

汗を拭いながらカーが応える。


「いつもこの調子なら監督はいらねえがな」


「ああ、今に吠えずらをかくことになるぜロシア野郎・・・」


「なにか言ったか?」


「いや、おい!みんな早くやってしまおうぜ!」


「おう!」

と威勢のいい声が倉庫に響く。


その後全員は心の中で「日本のため、日本のため」と言いながらシャベルを使った。


昨日世話になった荷を背負って下りて来るポーランドの死刑囚も目配せを交わした。


「どうした?ベトナム人?」


「いいからどんどん持ってこい!」


「さっきから持ってきてるじゃあねえか。そんなにベトナム人はこんな仕事がしたいのか?」


「違うんだ、大きな声では言えねえがこいつは泥が混じっているんだ。」


「なんだと泥が?本当か?見た目には変わらんが・・・」


「ああ、昨日の晩からおれたちが混ぜたんだ。これで艦の速力が落ちる」


「本当か!」


「ああ、お前たちの敵討ちにもなる。だからじゃんじゃん持ってこい」


「わかった!こいつは面白えぇ!」


パブロフとカーの会話に


「こらあ、そこ!さぼるな!」

とマカロフの怒号が飛ぶ。


「じゃあな!」


この秘密がポーランド人たちに伝わったのであろうその後の運搬作業は人が変わったように働いた。中には重労働にもかかわらず笑みを浮かべているポーランド人さえ見受けられた。


「おう、ベトナム人、聞いたぜ!やるもんだな!」


「これは作業に力がはいるぜ!ベトナム人」


全員が笑みを浮かべてカーの肩をたたいていく。


「ミハエル隊長も天国で喜んでいるぜ!」


カーは次々と荷を降ろして声をかけてくる彼らに目配せのあと親指を立てた。


この日はベトナム人とポーランド人全員がまさに身を粉にして働いたので時間内にノルマは達成したのである。


「よーしお前たち、今日はよくやった。珍しく日没前にノルマは達成した。毎日この調子でやるようにな!解散!」

マカロフの大声で4日目の作業が終わった。





その日の夜タンの家には作業を終えたほとんどの漁師が集まっていた

「おう、タン、首尾はどうだった?」

カーが尋ねる。


「あまりの作業の熱心さにスワロフから『何か企んでねえか?』と聞かれて最初は怪しまれたかなと思ったが、全然大丈夫だった。やつらは積み込まれる量しか見てねえから安心だ」


「こっちもそうだ、助けられたポーランド人にも話してやったらやつら大喜びだったぜ」


「よし今晩もがんばって全員で泥を詰めるぞ!」

タンの声に


「おう!」


と男たちの大きな声が響いた。


男たちはシャベルを担いでタンの家の裏庭に向かうのであった。

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