063▽心火
私立・
アヤト達3人がいる、窓の閉ざされた暗闇の
廊下の壁に取り付けられたスピーカーから流れてきたのは、放送を知らせるチャイムの音。
その後に続いたのは、半ばふざけた調子の男声。
『あー、テステス、ただいまマイクのテスト中、
よし、オッケーだなっ』
それが、息継ぎの次の瞬間には、
『── オラぁ!
テメーら
そんなに人質の命が
おい、しゃべれコラぁ!』
男の
『……痛いっ
やめて、やめてください……』
放送の声は、最初の
『ヒヒヒッ、聞こえたかァ?
放送席には、ただ今、
── ほら、自己紹介だよ!
じ・こ・し・ょ・う・か・い!
また
男の
「コイツ……っ」
赤髪の少女・中西マコトが、廊下の
『な、
お願い……もう、痛い事しないでぇ……』
『チヨカちゃんか?
お嬢様らしい古風な名前だねえ、ヒヒヒッ
ところで、チヨちゃんは何歳かなァ?
カレシとか、いたりするのかなァ?』
スピーカーからは、捕らわれた少女の
『じゅ、16歳です……。
カ、カレシとはそういう人は、まだ……』
『おぉ~~っと、これは処女だ!
処女確定でぇ~す!
それならお兄さん張り切って、チヨちゃんの
ズボズボ生ハメで、お
『い、いやぁ……』
『イヤじゃねえよ、クソ
死にてえかァッ、ああン!?
こっちは公開レイプでも、公開処刑でも、どっちでもイイんだぞォ!』
『パ、パパ……助けてぇ……っ』
『おっ、イイねイイね!
せっかくの娘の晴れ舞台なんだから、是非ともパパに見てもらわないとなァっ
おい、ちょっとカメラ探すぞ!
── というワケで、ブタ野郎
ああ、おかしなマネすると、レイプショーが処刑ショーになっちゃうよォ?
” 続きはCMの後、お楽しみに! ” ってな、ヒィ~ッ、ヒッヒッヒッ!』
男のふざけた口調を最後に、ブツンッ、とスピーカーの電源が切れた。
「……聞くに
最初に口を開いたのは、ボロボロの作業服をまとう用務員・荒牧
彼は、身体を支えるように、壁にもたれかかりながら立ち上がる。
続いて、赤く染めた
「チッ……。
なあ、どうするんだよ、コレ?」
彼女は、心底
だが、それに返ってきたのは、想像以上に低い声と鋭い眼光。
「── あァンッ?」
今まで、軽口や余裕を欠かさなかった青衣の魔術師の表情が
「 『どうするか?』 だとぉ……?
どうするもこうするも、あるかよ……っ」
青い
まるで、心中に
「── ……っ!?」
それを見た仁太が、自分の腹部の傷口を押さえながらも、慌ただしくマコトに駆け寄った。
作業服
「し、しーッスよ、マコトちゃん……。
やべえ、やべえ、これ、マジでやべえ……!」
「拝み倒されて、イヤイヤ引き受けたってのに……その上コレかぁ……?
また、わざわざ外の連中に聞こえるように放送してくれやがって……っ」
小柄な魔術師はブツブツと
すると、その
「<
周囲に巻き散らかされた火の粉のような
近くの窓が、ビリビリと
徐々にその振動が、教室のドア、壁のスピーカーや掲示板、さらには自動販売機などにも
「じ、地震……っ!?」
マコトは、自動販売機が酔っ払いのようにグラグラとふらつき始めたのを見て、慌てて距離を取った。
「お、お、おぉ……!
── ひ、
「こんなタイミングで、地震なんて……っ」
二人して
── と不意に、ダンッ、と靴の音が響いた。
アヤトが、片足を高々と持ち上げて、力強く地面を
それを
今にも倒れんばかりに不安定だった自動販売機も、何事もなかったように静止していた。
「え、何ッスか、今の……?」
仁太は、ボクシングの防御のように上げた両手をソロソロと下ろしながら、不思議そうに周囲を見渡す。
「俺も、ガキだな……」
するとアヤトが、苦々しい声を漏らす。
青い魔術師は、
2度3度と
アヤトが姿勢を
「すまんすまん。
うっかり、安い挑発に乗るところだった」
「……今さっき揺れたのって、もしかして大将ッスか?」
仁太が、恐る恐ると問いかける。
しかし、アヤトは、少しバツの悪そうな
「……さっきの放送では、『SATども』って言ってたか。
まだ誤解されているなら、好都合。
余計な警戒される前に、サクッと終わらせる」
小柄な魔術師は左手を懐に突っ込んで、
左手の指の間に挟んでぶら下げるそれらは、直径15cm×厚さ2cmほどの、金属製の
ちょうど、古代の銅鏡のような形状の
── 鉄鎖の魔術師が常備する、極大魔術の待機形態だ。
そして、右手をフードの中に入れ、耳の辺りを押さえながら、虚空に視線を向けて
「── 俺だ。
ちょっと予定変更する」
▲ ▽ ▲ ▽
私立・
「
「乗ってくるさ。
少なくとも無視はできない。
警察の部隊であればこそ、人質を見殺しには出来ないからな」
放送室の前に立つ男2人が、くぐもった声でそんな会話をしていた。
「明らかにワナって分かっててもか?」
「人質がむざむざと処刑された、なんて救出部隊の名折れだ。
被害甚大と分かっていても、動かざるを得ないさ」
見張りの男2人組は、どちらも軍用ライフルを肩から提げ、左右の警戒は怠らない。
そして、凶悪犯圧戦で多用される
「だが、真っ正面から突っ込んでくる事はないだろ?」
「大型重機や鉄球で強行突破、みたいな手でくるかもな。
昔の、山荘の立籠り事件みたいに、」
「……山荘の立籠りって?
最近、そんな事件あったか?」
「いやいや、昭和の事件だよ。
共産系の革命闘士とか、そういう連中のアレ」
「昭和の……革命、闘士……?」
「おいおい……社会科の常識問題だ ── っと、何だ?」
片方の男が、呆れた口調で説明しようとして、ふと何かに異変に気づいた。
言われて、相棒の方も周囲を見渡す。
── ジャラジャラジャラ……と、暗闇の廊下に、どこからか金属音が響いてくる。
「これ、何の音だ?
まるで、パチンコ屋の騒音みたいな……」
「ああ、金属部品を床にぶちまけたような音が……」
放送室の前に陣取る男2人組は、肩掛けの軍用ライフルを構え直し、お互いに背を預けるように、それぞれ廊下の両側を見張る。
と、同時に見張り2人の目が、見開かれた。
「── な……!」 「何だ、ありゃ!?」
二人とも、方向は違えど同じ光景を目して、絶句する。
現れたのは、いわば金属の大津波。
廊下の暗闇の向こうから、天井まで埋め尽くす鈍色の輝きが押し寄せてきていた。
── ジャラジャララジャラララァ……ッ!
迫り来る金属の大波は、もはや金属片を積み上げた壁だ。
それが、人が走るくらいのスピードで、
「クソっ 冗談じゃねぇ!」
見張りの片方が、思わず引き金を引き絞る。
── ダララ! ダララ!
だが、人間相手なら一撃で打ち倒すライフル弾も、金属の波へと
「ムダ弾
見張りのもう片方が、そう言って放送室のドアノブに手をかける。
しかし、ノブをガチャガチャと2・3度回して、ドアの内側からカギがかかっているのを思い出し、激しくノックする。
「おい、開けてくれ!
おい! 開けろってっ」
「── どけっ」
見張りの男は、ドアノブにしがみつく相棒を押しのけ、ドアノブの付け根に向けて軍用ライフルを発砲。
運良く
見張り2人組が、急いでドアを閉めて、壊したカギの代わりに
「── おいおい、お前ら持ち場離れるなよ。
今から
「チィ……お前らも
それなら、いくらでも回して ──」
放送機材のある操作室から、ガラスを
見張りの男2人組は顔だけ振り返ると、
「── 違う!
敵の襲撃だ!」
「二人とも、ドアを押さえるの手伝え!」
廊下の常識外れな脅威を目撃した見張りの2人と、そうでない室内の2人とでは、あまりに緊迫感に差がありすぎた。
「── なんだ?
もう、この人質を盾に使うのか?
まだ
「チッ!
せっかく日が暮れるのを待ってたんだぞ。
対して、室内に逃げ込んできた見張り二人は、
「バカ!
そんなレベルの話じゃねえんだよ!
「
見張り二人は、血相を変えて危機的状況を
放送機材操作室と、ガラスを
「……どうする?」
問いかけたのは、長テーブルの上に半裸の少女を寝かせ、その手足を縛り付ける作業していた方の男。
もう片方の男は、上着の前をはだけ下半身は丸出しの状況で、困ったように天井を頭をかく。
「あれだけ挑発しておいて、今さら中止ってのもなぁ……」
「
まあ最悪のパターンは、この
「
緊張感なく雑談している奥の2人組に、見張り役の片方は焦れたように叫ぶ。
「おいっ
いいから早く手伝え!」
── そうこうしている内に、ドシャンッ! と、大型トラックが正面衝突したような重低音が
ドアに立てかけた重し代わりの荷物も、両手で押さえる男2人もまとめて、数メートル吹っ飛ぶ。
「うわあぁっ」「ぐぁ……っ」
吹き飛ばされた見張り2人組は、床に叩きつけられ、悶絶する。
── ジャラララ……ッ と、その
鎖の群れは、まるで船を海底へ引きずり込む
「ちくしょうっ 離せぇっ」「このぉっ このぉ!」
そんな抵抗の声も、すぐに聞こえなくなった。
「── な……なんだ、今のは……?」
「……
//── ※作者注釈 ──//
この作品における政治・軍事要素は「なんちゃって」です。
おかしな所があったら「作者がアホなんだな」とご理解下さい。
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