051▽ハンガーガール
4階と3階をつなぐ階段の
「本当にこんな手に引っかかるとは……バカかコイツは?」
彼女は、<DD部隊>の隊員だ。
彼女の声に反応するように、その視線の先の人物 ── ピンの付いたままの手榴弾をスライディング・キャッチした、灰色制服の男が首だけ持ち上げる。
男が何かするより早く、
ドドドン! と3連射が
大口径弾丸は、廊下の床に横ばい状態のままの
不死身を誇る吸血鬼にも
「── ガァ、ヒュ……ッ」
横ばい体勢の男は、口から鮮血を
同時に、
カラカラカラ……、と
鋭い目つきの<DD部隊>隊員は、敵の手から武器が失われたのを確認すると、
同じく
少女は、階段の手すりの上に武器を乗せるように構え、残り1人の敵を警戒する。
年上の隊員は、
彼女は、成熟した肉体を、ピッタリした白い
その白い光沢ある生地は、まるで
まるで着替えている最中のようにも見える、妙に
そんな色気ある年上の隊員が、細い手に
「食欲と性欲しか頭にない野良犬ども、とは聞いていたが。
投げた物にすぐ飛びつく、まさに犬だな……」
「……ヒュー……ヒュー……」
妙齢美女の失笑まじりの声に、倒れていた男が再度、顔だけ持ち上げる。
男は、何か言いたげに口を開くが、と
彼女は、亀のように首を伸ばす
ドドドン! と、
「フン……っ」
彼女は、次いで死体を
彼女達、<DD部隊>隊員たちが持つ巨大な
その
小型化した
右側面から見れば、六角形の盾からはみ出すように、上辺に
左側面から見れば、プラモデルの部品を支える
本来、銃器は精密部品の塊であり、わずかな変形やゴミの付着などでも機能不全を起こすような、繊細な代物だ。
だから、接近戦闘では、銃身にナイフ取り付た『銃剣』という、槍代わりに使う程度がせいぜいだ。
もしも盾や打撃武器の代わりとして殴り合いに使おうものなら、当然すぐに壊れて動作不良になってしまう。
最悪、銃弾の火薬が
そんな壊れやすい精密兵器を、白兵戦でも十分対応できるように、金属の角パイプで囲み、パイプ内部に衝撃分散用にジェルを注入し、打撃部分となる前方にはボルトを取り付け、
── そんな風に改造に改造を重ね、
それが、一見は
── と、不意に廊下に足音が響く。
重量感のある足音が、慌ただしく遠のいていく。
「今さら逃げるか。
判断が遅い……っ」
美女は呆れたようにつぶやき、残りの敵兵が逃げていった方とは逆方向のカーブに駆け寄った。
彼女が、廊下のカーブ手前の壁に張り付くと、巨大武器で両手が塞がった女の背中から、白い帯のような物が伸びた。
それは、3本目の腕として
格闘ナイフの磨き上げられた刀身は、鏡のように景色をうつし、カーブ先を
「左、
よし行け!」
「
合図を待っていた
対して、犯人グループのもう一人の男・内村は、追ってくる足音に首だけ振り向いた。
「クソぉ……っ」
彼は悪態をつくと、すぐに身体の向きを反転させる。
小走りに後退しながらも、追っ手の少女に小銃を向けた。
── タララ! タララ!
窓が暗幕で覆われた薄暗い廊下に、射撃炎が
しかし、10代
男は舌打ちを一つ、立ち止まって銃器を操作。
グリップの上にある『つまみ』を切り替えた。
「こいつなら、どうだっ!」
3点バーストというセミオートから、フルオートに切り替えた小銃を、片手で横倒し構えると、胸の高さで横薙ぎに振り回す。
変則的な掃射だ。
銃撃は点の攻撃であるため、距離が開けば命中しずらいという欠点がある。
掃射とは、その欠点を埋める物で、横に一文字の直線を引くように連射する事で、必ず敵に命中させるという
幅2メートルほどの廊下を駆け寄ってくる、少女兵士には逃げ場はない。
── そのはずだった。
しかし少女は、そんな行動は見越していたかのように、窓側の壁を蹴って高々と跳躍した。
銃弾が描く横一文字の線を、軽々と飛び越える。
そして逆の壁 ── 教室側の壁をキックする直前、尻尾のような物が伸びて支柱に絡みつき、身体を引き寄せて勢いを増す。
「そんなの反則だろぉ!?」
この
──
屋内や閉所での戦闘のための特殊機動モードだ。
その最大の特徴は、腰の後ろから伸びる尻尾のような
第三の腕として駆動するそれは、教室のアルミサッシや廊下の柱を
廊下の天井すれすれの高さを、両脇の
「ぐぅ……っ」
犯人グループの一人・内村は、バランスを崩し
<DD部隊>の少女は、その
敵の後方で身体を捻って振り返ると、教室のドアの支柱に『着地』。
さらに、尻尾のような白い
── ドドドン! と、3連の爆音が教室の廊下面のガラスを震わせた。
さらに少女隊員は、壁から駆け下り、倒れた敵に再度3点バーストを撃ち込む。
そこに
彼女は、少女が敵に
「
このまま
『
繰り返す、
「了解、
年上の隊員が通信を終えると、少女隊員が手の届く範囲にまで近寄ってきていた。
少女は、得意げな顔で上目遣いをする。
「ほらぁ~、
ねぇねぇ、姉さん?
ああやって爆弾投げると、みんな慌ててビックリして、おかしいのっ」
「ふぅ……お前達の
妙齢の女性はため息の後、少女に呆れ混じりの声をかける。
「そうです、蓮花はお役に立ったのです!
いっぱい、いっぱい頑張ったのです!」
「わかった。
しかし少女は、相手のつれない反応が不満のようで、首を激しく横に振る。
「ち~が~う~っ
『
少女が
「……おい、お前っ」
しかし、
「だ、だって……でもぉ……。
マスターが『ちゃんと頑張った子はほめなさい』って。
言ってたもん……言ってたもん……!」
「── ち……っ」
年上の隊員は舌打ちをすると、苛立ちを抑えるように額に手を当てて、年下の少女に背を向ける。
「── ふぅ……もうっ」
彼女は、背を向けたまま、深々と息を
それは、ため息と言うよりも、
そんな吐息と共に、近寄り
「もう、仕方ない子ねぇ……」
そして、年上の隊員が振り返る。
彼女の鋭かった
「……困るわぁ。
こうやって『いつも下の子を甘やかしてる』って私が怒られているのよ?」
「── ♪」
だから年上の女隊員が少し説教じみた口調で言っても、少女隊員の顔には緊張よりも喜びの方が強く表れている。
そもそも、妙齢美女の声は、先ほどまでは冷水のような凜とした物だったのだが、今は春の日差しのように穏やかで温かい。
この温和な声に指示されて、緊張感を持てと言われる方が難しいだろう。
「だからね。
年上の隊員は、兵士の顔をやめて姉の顔に戻ると、わがままな妹の頭を優しく
「うんっ!
「もう、調子が良い子ねぇ……」
柔らかな雰囲気になった姉は、少し眉を寄せて、抱きつこうとする妹を押し止める。
「── ハァ……イヤだわぁ。
また皆に『下の子に
「姉さん、ペロペロぉ~」
「もう、ふざけないの……っ」
足下に転がる男の死体には
戦場の最中というのに、
//── 作者コメント ──//
前回のエリート隊員(笑)さんのせいで、更新ストックが切れてやばい事に。
アイツ、すぐ死ぬ役回りのくせに、ムチャクチャ書きにくくて超迷惑。
2020/01/02訂正
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