004▽悪友たち


 大学のカフェ兼食堂を出ると、夕方前の時間であっても残暑が厳しく、文明の利器たるクーラーのありがたみが身にしみる。

 太陽光と、アスファルトから立ち上る熱気、セミ時雨が、三位一体で襲いかかってきて目眩さえ覚える不快指数だ。


 天文研の男子2人組は木陰を選んで歩き、ブラブラとだらけた足取りで部室棟に向かいながら、さきほど別れたばかりの友人を話題にしていた。


 「アイツって、やっぱりそういうゲームやってるのかな?

 仮想恋愛ゲームギャルゲーとかいうヤツ」


 茶髪の友人の問いかけに、ひたいの汗を片手でぬぐいながら天然パーマの男が答える。


 「さぁな。 少なくとも大学の中ではやってないみたいだが。

 ……そう言えば、中学校の頃とかは、ネットゲームにはまってたとかいう話は聞いた事あったな。

 ああそういえば、何かいつも携帯で攻略サイト見たり、魔物とか騎士がどうとか言ってた」


 「あー、そういえばお前って、アヤトと出身が一緒だったっけ?」


 「中学だけな。

 高校は、微妙に遠い所に行ったから、小田原」


 「何なに? 遠い所に進学するとか、アイツいじめられてたの?」


 醜聞ゴシップの匂いでも感じたのか、茶髪は身を乗り出すが、天然パーマは首を傾げる。


 「いや、別にそんな事はなかったと思うけど……

 あー、いや、でもなんか地元の暴走族とトラブル起こした的な話しを聞いたような……」


 「あー……ありそう、ありそう。

 アイツ、チビのくせに生意気だから」


 「なんか、こう、自分はすごい強いんだ! と、勘違いしている感じがあるよな、あの体格ガタイで。

 実は、格闘技の達人で ──……って、無いな」


 「ないないっ

 しかし…… 『女にモテ過ぎて、両手の指にあまる』 って、どこからそんな自信が沸いてくるんだ、アイツ」


 茶髪の男子が、失笑と共に、自分の頭の横でくるくると指で渦巻きを描く。


 「でも小田原って、実は本当に影でこっそり彼女つくって ── ……って、それも無いか」


 「ないな、あはははっ」


 この場にいない友人を槍玉に挙げ、盛り上がる二人。

 なかなか友達甲斐のない連中だ。


 「だいたい、アイツって、サークルも入らない、バイトもしてない、勉強すらさっぱりなら、家に帰って何を ──……う、ぉ……?」


 ── と、その片方の言葉と、足取りが急に止まった。


 「── ん、どうした?」


 立ち止まった連れ合いに気づき、もう一人の男子生徒も足を止める。

 そして、見て、ぽかん、と揃って口を開く。

 2人揃って右手 ── 校門をくぐってきた人物たちを凝視する。


 「………………」

 「………………」


 大学の構内には不釣り合いな、その二つの人影を見送り、背中が見えなくなった頃にどちらともなく口を開いた。


 「……えっと、なんだったんだ、今の?」


 「……ええーーと……、入学パンフの撮影、とか?」


 「いやいやいや、ナイトクラブの広告じゃないんだから……」


 「だよな……── あ、そういえば……」


 「ん?」


 「小田原のヤツ、バニーガールとメイド服のどっちの方がより萌えるか、とか誰かと教室で口論してた事が、昔、中学の頃……」


 「女子、どん引きだろ、それ。

 そんなんだから、モテないんだよ、あいつ」


 外気の暑さに顔を片手であおぎ、ため息をつきながら、呆れの声。

 それを合図に、彼らは今し方見た非日常的な光景を棚上げして、彼らの日常へと戻っていった。





//── 作者コメント ──//


2020/01/13 変更点

 ・ストーリー順番変更 003 → 004


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