第36話 今の若い人たちへ


 

私は戦後の日本の歩みを見てきて今の若い人たちがとてもうらやましいと思います。


町中で笑いながら歩くカップルを見たり、学校で野球やサッカーにがんばっている学生を見たりすると「私たちの青春は戦争がすべてだった」と改めて思います。


海軍兵学校68期は卒業後すぐに戦争が始まりましたので一番戦死者が多いクラスで300名中、戦後まで生き残ったのは100名と、なんと3人に2人が戦死しているクラスなのです。


死んでいった全員が勉強やスポーツや恋愛すべてを投げ捨てて日本の国のためと子孫のために20代の若い年齢で、進んで自らの命を捧げました。


このように書くと我々の世代は「無理やり死ぬために戦地へ行かされた」ように誤解されそうですが決してそうではありません。


誰にとっても死ぬのは怖いのは当然ですが自分の命と引き換えに大切な家族や恋人、近所のお世話になった人たちを守るためであれば戦地に行くことは当然のことのように思っていました。


そして仮に戦死しても先に死んだ戦友達と「靖国神社で会える」という言葉を信じることによって自分の死は犬死ではないと確信することができました。


当時の軍隊内では兵隊が相手と戦って戦死したときには靖国神社に祀られることになっていました。


靖国神社に祀られる事で全国民から国のために戦った勇敢な戦士として感謝と畏怖のまなざしで見られることは全員が知っていました。


ですから、われわれにとって戦死は決して無意味ではなかったのです。


今の日本は近隣諸国に遠慮して国歌を歌わない卒業式を行ったり、休日に家の玄関に国旗を挙げないような風潮になってきています。


また日本の首相の靖国神社参拝も近隣諸国に遠慮して中止になっています。


たしかに日本は太平洋戦争に負けました。


それも歴史上これ以上ないくらいひどい損害で国土がやられてまさに完膚無き状態で終戦を迎えたのです。


本来であれば戦勝国の当然の権利としてアメリカ軍の占領を受けて日本語の使用禁止、日本の文化をすべて否定されても文句の言えない立場です。


しかし2000年以上続いた文化と先代の遺産をたった1回だけ戦争に負けたからといって簡単に捨てていいものなのでしょうか。


みなさんの体の中にはお父さんお母さんから受け継いだ日本人としてのDNAが入っています。


その証拠に春の桜を見ればきれいと思うでしょうし秋の落ち葉を見るともうすぐ冬が来ることを意識して少しさみしい気持ちになるはずです。


私も同じです。


そのDNAの中には日本の国を愛する心も必ず入っているはずです。


愛国心を持つことが現在の教育界ではいろいろ問題になっていると聞きますがわずか、70年前に日本の将来を思って笑って死んでいった若者がたくさんいたことはまぎれもない事実ですのでこのことだけはぜひ覚えておいてください。


またそのような愛国心をもって望んで死んでいった同じ年頃の若者がたくさんいたことを日本人として誇りに思ってください。


そしてもう一つ、みなさんのたった1つしかない自分の命を決して粗末にしないでください。


若いみなさんの可能性は無限大です。


学校や友達関係で少し我慢ができないことや自分の思いどおりにならないことがあっても決してあきらめないでください。


私たち名取短艇隊も最後まであきらめずに信じて漕いだからこそはるか600キロ先のフィリピンにたどりつくことができました。


キリスト教の聖書の中に「神は自ら助くるもののみ助ける」という有名な言葉があります。


目標に向かって本当に自分から努力した人にはそれ相応のご褒美が用意されています。


そのことを信じて勉強にスポーツに恋愛にがんばってください。


そしてお父さんお母さん、兄弟、お友達を大切にしてください。


最後まで私の話を聞いてくれて本当にありがとう。


元帝国海軍大尉 松永市朗

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