第31話 漂流13日目 8月30日



明け方まだ暗い中で声がした


「陸地だ!」


もう一度


「陸地だ!」と誰かが叫んだ。


もう叫ぶだけの力が残っていないはずなのに体の底から振り絞るような見張りの隊員のその声に周りの隊員たちが全員目を覚ました。


「何!」


「本当か」


今まで何度と同じ言葉に反応して目をこらして見たけれど何度がっかりしたことか。


「どうせまた見間違いだろ」


という声もあったが全員が少しでも希望を捨てまいと、見張りが指差す方向を必死に見つめました。


しばらく時間が過ぎると朝の光で島の線がもっとよく見えるようになりました。


すると上下する波の間に小さいながらもまちがいなく島が見え隠れしています。


しかもその陸地は小さな島ではないらしく左右に広がる緑はどこまでも続いているかのように見えました。


「おい、お前は見えるか?わしは目が悪いけん、何も見えん」


「眼鏡を沈没の時に落としてしもうてのう。何か見えるか?」


「見える!」


「たしかに見えるぞ!陸地だ」


「間違いない!」


ほとんど寝ていた隊員もこの騒ぎに全員が起きだして眠い目をこすりながら不安と希望を込めた目で同じ方角を見つめています。


しばらく沈黙が続いた後


「間違いない!陸地だ。しかも陸の形からしてフィリピン・ヒナツワン水道だ。我々はついに600キロを踏破したぞ!」


小林大尉の落ち着いた声に全員が


「ウォーッ」


とどこにそんな力が残っていたのか大歓声を上げた。


夢ではなく全員の目にまさに陸地の姿は次第に大きく視界に広がっていきます。


もう誰の目にも明らかに陸地だと判断できる距離になったときには全員が最後の力を振り絞ってオールを漕いだ。


オールを1漕ぎするごとに緑いっぱいの椰子の木や波が打ち寄せる海岸が目前に迫ってきます。


はやるこころで漕ぐ全員に小林大尉は言いました。


「全員今すぐ回漕をやめろ 接岸は敵の目を警戒して夜間にする。それまで待機するように」


その言葉に

「もう陸地はすぐそこだ!漕ぎましょう」

「早く上陸させてください」


と多くの反論が出ましたが


「いいかみんなのはやる気持ちはよくわかる。しかし『100里の旅も99里をもって半ばとせよ。』という。接岸地が味方の占領地ならいいがもし敵やゲリラがいたらせっかくここまで来たのにむざむざ捕虜になることになる。上陸は夜間とする。以上」


この言葉の後前方の島を見ながら全員が不満の中首を長くして夜を待ちましてた。


もし敵が待ち構えている中に飛び込んでいったらわれわれはもう戦う体力すら残ってないので捕虜になる事は確実ですから仕方ありません。


みな、はやる気持ちを抑えて我慢して夜まで待ちましたが陸地は目の前にあるのでその顔には安堵の表情が見て取れました。



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