第28話 漂流10日目 8月27日



 昼間のことです


「あ、蝶々だ」


「本当だ!」


という声に全員が起き出しました。


「本当だ蝶々が飛んでいる!」


隊員は子供のようにひらひら飛ぶ白い蝶々の方に指差しながら大喜びしました。


「蝶々だ、やったー」


「陸地は近いぞ」


わたしは、どうせ隊員がまた幻覚を見たのだろうと思って話を半分で聞いていましたが、その私の目の前をひらひらとまぎれもない蝶々が飛んできたのです。


しかもつかもうと手を伸ばしたら反応してひらりと交わされたのでこれは夢や幻覚ではないと確信しました。


「間違いない、蝶々が飛んできた」


皆さんも知っているように蝶々は風に弱く飛行距離が短い虫です。


近くに陸がなければこんな海上に飛んでくることは絶対あり得ない虫です。


すなわち

「この近くに島か陸地がある証拠だ!」

と全員が声には出さなかったけれどもそう思ったのも無理もありません。


「もう一息だがんばろう!」


「陸地は近いぞ!」


「もう少しだ!」


たった一匹の蝶々の出現によってこの夜の回漕はみんなの意思が一つになったような力強さを感じました。


1漕ぎ1漕ぎごとに陸地が近づくのを確信したようながんばりでした。


艇長の私はオールの動きでそれを感じました。


「いよいよ陸地だ」


「ああ、生きて帰れそうだ」


「頑張った甲斐があった」


しかしあの蝶々はいったいどこから来たものか、この夜の回漕のあと夜が明けても結局陸地は見えませんでした。


「実は蝶々を見た地点が一番陸地に近くてわれわれは一晩かけて逆に陸地から遠ざかったのではないか」


「無駄なことをした!」


と失望する声が聞こえました。

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