第27話 漂流9日目 8月26日
朝の水平線に白い長いものが見えました。
「煙か?」との声に
「なに!煙?船か?」とカッター内は大騒ぎになりました。
しかしよく見ると煙の正体は水平線に顔を出した入道雲であったので全員ががっかりしてしばらくは会話もなく長い沈黙が続いたのです。
このころからすべてのものが栄養失調のためか何かしらの幻覚が見えるらしく、言葉に元気がなくなってきたのです。
それはそうです、大の大人が毎日わずか乾パン2枚で9日も生命を維持しているのですから当然のことです。
むしろ生きていること自体が不思議なくらいです。
全員が私の座る樽の上に熱い視線を注ぎ始めたのもこのころです。
私は半分くらいになった乾パンの入った樽の上にもう一度しっかり座りなおして目を閉じました。
尻の下にある乾パンだけが彼らの命を繋ぎとめる唯一の食料なのです。
夕方、別のカッターから高熱を出した病人が死亡との知らせがあり、全員敬礼の中水葬することとなりました。
「先に行ったほうが楽かもなあ」
「ほんまじゃ」
「うらやましいなあ」
潮に乗って流れていく死体を見送りながらと誰かがポツリとつぶやきました。
この日あたりから私は「食料の管理」を気をつけるようになりました。
海難事故の大半は、最終的に生き残ったモノ同士の食料の争奪戦で全滅することを私は兵学校で習っていたからです。
いかに規律の取れた我が短艇隊でも例外ではないことをもう一度噛み締めて樽の上にしっかりと座り直しました。
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