第24話 漂流6日目 8月23日



この日は朝から太陽が、カンカン照りの一日でした。


昼間に小林大尉がカッターを3隻を集めてこう言いました。


「全員今からクイズを始める!当たった人には景品が出るぞ。ただし景品は上陸してからだ」

との声に


「景品は腹いっぱいのご飯」


「樽一杯の水!」


の返事に全員がどっと笑いました。


その後各カッターでは


「上は洪水、下は大火事 これはなんだ?」


「朝は4本足。昼は2本足。夜は3本足になる動物は?」


などとクイズを考えて出すほうも答えるほうも、和気あいあいの雰囲気が出てきました。


学校とは違い命を賭けて戦うのを仕事とする海軍で上下の分け隔てなくこのようなリラックスするようなことは海軍士官は絶対にやりません。


なぜかと言うと、一旦士官は部下に「舐められたら」その後の作戦に対しての命令が下まで届かないことを海軍兵学校で教わっていたからです。


「帝国軍人としてたとえ死ぬことがあっても最後の最後まで規律を伴って死ぬように」と教わっていたからです。


もちろん士官も人間ですから皆んなと一緒にリラックスしたい気持ちはありますが戦争時にはそうもいきません。


気持ちはわかりますが一瞬の気の緩みが部隊の全滅に繋がります。


しかし小林大尉は今の状況を考えて生き残ることを優先してわざと上下の階級の差を無視してこのような和んだ雰囲気作りを敢えてやったのです。


もし私が小林大尉の立場であったら同じことが出来たかどうか今でも自信がありません。


しかし結果的にはこの判断が正しかったことと50年以上経った今でもそう思います。


この日、無情にもスコールは無く全員水不足と暑さで死にそうでしたが先ほどのクイズの効果もあってかカッター内の雰囲気はなごんだまま夜の回漕をこなせたのです。


「オー」「エス」


「オー」「エス」


まばゆく輝く南十字星のもとカッターは力強くもくもくと漕がれます。


私は「とにかくみんな頑張れ!」と心の中で励ますことしかできませんでした。

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