第25話 漂流7日目 8月24日



今日も前日と同じく昼間はクイズで気を紛らわせたものの、さすがに2日もクイズをすればネタがなくなり少し飽きてきたので、隊員の半分は睡眠を取って夜に備える者が出てきました。


「ガー」


「ゴー」


と大きないびきが聞こえる中、ご飯を食べている夢を見ているのか


「ごはんおかわり」


「味噌汁もう一杯」


と寝言が聞こえます。


毎日がわずかしかない乾パンの食事なので頭の中は普段の食事をすることで一杯なのでしよう。


恥ずかしながら私もそうでした。

寝言で部下の前で同じようなことを言わないかヒヤヒヤしたものでした。


この日の夕方はスコールがあり全員が裸になって体を洗い、大口を開けて給水したためか夜の回漕もはかどった模様に少しほっとしました。


雨の降ったあとの夜の気温は昼間と比べものにならないくらい寒くて、特に風が吹いているときなどは男同士がガタガタ震えて抱き合ってしのがなければならないほどでした。


この夜カッターの底で風邪で寝込んでいた隊員がついに息を引き取りました。


カッターを漕げばすぐに汗びっしょりになるので体温が上がり寒さは感じませんが、カッター作業を休止したたことがかえって災いして風邪の隊員は夜の寒さで体力を消耗したようでした。


全員の敬礼の中死体を海に流すときに誰かがぽつりと言いました。


「おい、次は誰の番かのう」


私は毎日この回漕の記録を克明に手帳に書いていましたがふと

「われわれがこの回漕に失敗したらこの手帳が誰かに発見され、読まれる日があるのだろうか」

と不安になりました。

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