第20話 漂流3日目 8月20日 その1



待ちに待った太陽が東から昇ってきます。

それを見て誰かが軍歌を歌います。


「見よ東海の 空明けて 旭日高く 輝けば

天地の生気 溌剌と 希望は躍る 大八洲(おおやしま)

おお 晴朗の 朝雲に 聳ゆる富士の 姿こそ

金甌無欠 揺ぎなき わが日本の 誇りなれ」


全員が久しぶりに見る太陽に手を合わせて


「やった太陽だ」


「これで寒さに震えずにすむ」


と感謝しながら全員が助かったような顔をしていました。


先日に続いてやけどを負った2名の隊員が朝息を引き取りました。


「痛い痛い」

と終日我々に訴えていましたが結局、さするだけで何もしてやれずに亡くなり、昨日同様敬礼をしながら涙で見送りました。


私は昇ってくる太陽を見ながら

「動くかここにとどまるか、今日が決断の日だな」

と思っていました。


同じことを思ったのか総指揮官の小林大尉は集まっている3隻といかだにむかってこう言いました。


「現在の生存者数は」


しばらく手旗信号で3隻のカッターといかだの隊員とのあいだにやりとりがあって


「合計195名です」


「よし!定員45名にこだわらず、いかだによって漂流している隊員をすべてカッターに全員移動させる」


その言葉の後、疲れきったいかだの隊員たちが全員カッターに引き上げられました。


3隻で195名ですから1隻に65名が詰め込まれたかたちになり、45名定員のカッターはまるで「すし詰め状態」で体を動かす余地もありませんでしたがそれでも誰も文句を言いませんでした。


そして小林大尉は、195名全員に聞こえるような大きな声で


「総員に告ぐ!これよりわれわれは名取短艇隊を組織する」


と叫んだのです。

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