~ 第5話 希望の部隊とは ~
── サイハ視点 ──
「このCDA直轄救助部隊は、CDAアメリカ本部から選任された猛者が集まる、日本の要(かなめ)の部隊だ!
今回、異例で数名入隊する事になる。この部隊に配属されるのは──」
田辺と清水は、胸の辺りをゴソゴソしだす。
何かを胸に付けたのか、胸の辺りを確認すると、黒色の、盾の形をしたバッチが付いていた。
バッチの中には、十字の形を模した軍刀が描かれている。
「早く行けよ」
「おめでとう。2人共」
田辺と清水は俺達に敬礼する。
それには、俺達も敬礼をする。
「──NO.88零乃才羽、救済階級A!!
88番、上がってこい!」
「へいへーい」
周りの兵士達は混乱気味に2つに割れ、道を作る。
道を作られた後は静かなもので、声明でのざわつきから一変。
靴底と、床の擦れる摩擦音だけが、会場に響き渡っていた。
ゆったりとした足取りで階段を上がり、体一つ抜けた高台から、周囲の人間を見る。
皆、希望に満ちた視線を俺に向けて来る。
そして、教官はマイクを手に取る。
俺は教官がマイクを使う所を初めて見た。恐い。
周囲の訓練兵達も、きっと同じ気持ちだ。全員が教官の動向を探っている。
何せ拡声器を
普段はマイク等使わずとも、地声で会場全体に響き渡る声量で話し始めるのだが……。
今回は何故か、マイクを
もう一度言う。恐い。
教官はゼエゼエと荒い呼吸をしながら、マイクを力強く握りしめる。
教官がマイクを口元に近付けた時、俺含め、周囲の訓練兵達の肩が跳ね上がる。
「NO.88は体力面ではやや劣るが、類稀ないセンスで見事にカバーしている。
そしてなにより、卓越した頭脳を持ち合わせており、IQは180を有に超えている。
よって、直轄救助部隊の作戦指揮、兼戦闘要員として、戦績を幅広く上げてくれると判断し、この部隊に入隊させた」
意外と声は落ち着いており、ハウリングも起こってない。
不気味だ。
ここまで何もないと本当に不気味だ。
「そして、もう一つの理由は、ある人物からの
会場がざわつき始める。
誰が? 何も聞かされてねェぞ。
「CDA直轄救助部隊の隊長であり、少佐でもある、
またまた会場がざわついた。
CDA直轄救助部隊を統べる作戦隊長。
そして、西日本CDAでは、若くして階級はSSの超大物ときた。
その彼からの推薦だ。どうもキナ臭い。
性格上、何か面白い事でも考えついたのか。
まあ、その事に関しては後でいくらでも追求できる。
すると、教官が再び口を開く。
「そして、もう一人。直轄救助部隊に加わる人間がいる」
教官は深呼吸をして、手に持っているマイクを後ろへと放り投げた。
マイク持った意味あんのかよ。
「もう一人? 誰だ?」
会場からそんな声が聞こえるが、もう既に知っている。
いや、知っていた。
俺が入れて、何で奴には入れない。
「NO.100峰山秀、救済階級A! お前も上がってこいっ!」
「は、はいっ!」
シュウの
先程シュウを呼んだ勢いで、教官のテンションがMAXを超えたのか、高台にある表彰台を素手で叩き割った。
化け物かよコイツ。
シュウも此方に向かって歩き始める。
訓練兵達は、ようやく状況が理解出来たのか、皆、シュウに対して敬礼しだした。
シュウは高台に上がる。
「NO.100は、生まれ持った戦いの才能がある。体力面も他より優れ、武道武術においても他を寄せ付けない程の腕前だ。
ただ、馬鹿な事だけは認めざるをえない。だが、この馬鹿さ加減が、秘めたる強さの秘訣かもしれんなぁ?」
教官は、ニマニマと笑いながら、シュウに熱い視線を向けている。
「き、恐縮です! 教官殿!」
「だろう? 恐縮だろう!? ワッハハ!」
「ハイ! 縮み上がります! アッハハ!」
横目で眺めながら若干引く。いや、かなり引いている。
ここ1年で、教官の
そして何より、コイツらは波長が合っている。
喉奥から石でも吐き出そうか……という勢いで、ゴホンと教官が咳払いをし、話し出す。
「彼ら2人には、ここに上がってもらう予定などなかった。
ましてや直轄救助部隊など……まだ遠い存在だと、私自身も、他の教官達もそう思っていた。
だが、彼らには本当に驚いた。まさか、この年で直轄救助部隊に入れるとは思ってもみなかったのだ!
この2人は、我ら教官達の
立派に戦ってくれよ、お前達!」
教官の涙混じりの熱い言葉に胸が詰まった……。
なんてことは100%ありはしない。どこぞの熱血漫画でもない限りは。
だが、俺の隣で鼻水垂らしながら、ワンワン号泣している馬鹿の姿がそこにはあった。
というか、
「ハ、ハイッ! 全力で務めさせて、いだだく所存で、ございまするぅ!
教官殿も、今まで以上の活躍を期待しで、おりまずっ!」
文法能力皆無のシュウが、泣きながら、途切れ途切れの言葉を並べているせいか、何を言っているのか理解できない。
おまけに敬礼なんかしている。
シュウの解読不能な感謝の気持ちが届いたのか、教官の頬に、一滴の雫が伝った。
「よく言っだっ! 100ばぁあん!」
「ハイ、ぎょうかああん!」
「んんばっひゃくばぅあん!」
「ぎょぉおがぁあん!」
シュウと教官は、お互い強く抱き合い、号泣しながら名前を叫びあっている。
俺はその様子を、マジ嘘1000%の笑顔で見守る。
もう、帰っていいかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます