~ 第4話 それぞれの道 ~

 ── サイハ視点 ──


「これより、卒業試験の結果を発表する!

 配属される部隊階級が低い順に名前を呼ぶので、心して聞け!」



 模擬戦闘試験は終了して、教官からの結果発表が行われる。

 ここで、俺達が配属されるであろう部隊が決定する。


 死力は尽くした。

 だから後悔はない。



「まず、NO.28大塚、救済階級F-! お前は訓練のやり直しだ! さっさとここから立ち去れ!」


 容赦の無い言葉が大塚に告げられた。大塚は悲しみに顔を歪め、立ち去る。


 教官から次々と名前が呼ばれていく。



 その結果。再訓練は『16名』となった。


「次に、西日本CDA内部の、治安統制の役目を持つ部隊。治安隊の入隊者を発表する!」


 この治安隊は、世界が西暦の頃で言うと、警察みたいなものだ。


 CDAには、数多くの避難者が生活している。

 避難者には、最低限度の生活保護が与えられるが、中にはその状況に耐えられない人々がいる。暴動を起こしたり、犯罪行為をする人々もいるだろう。


 治安隊は、そういった事に対する抑止力になる。


「NO.21米津、救済階級D-!」


 結果。治安隊の入隊者は『64名』となった。



「次に、壁の警護に携わる、駐屯隊の入隊者を発表する!」


 CDA支部には、巨大な壁が、その周りを取り囲むようにそびえたっている。


 駐屯隊は、その壁を警護する役割を持っている。


「NO.90神田、救済階級C!」


 駐屯隊の入隊者数は、『38名』となった。



「次に、今は日本の希望ともされている、救助隊の入隊者を発表する!」


 教官の声明と同時、訓練兵から歓声が上がる。


 壁の外では、現在でも、1年前の惨劇により、逃げ遅れた人々が多くいる。

 救助隊は、そういった人々に降りかかる脅威を振り払い、救助するのが目的だ。


 この救助隊こそ、俺とシュウがずっと入りたいと思っていた場所だ。


 その為に今まで努力してきたんだ。



「お前は呼ばれねぇよ」


 横から上ずった声が聞こえる。


 そちらを向くと、清水の肩を借りている田辺がいた。


 田辺は、先程ようやく治療が終わり、意識を取り戻したばかりだ。

 だと言うのに、田辺はもう起き上がっている。

 医療班の腕が良いのか、はたまた田辺の生命力が強いのか。


 まあ、そこはどうでもいい。


「呼ばれねェってどういう事だ」

「……ふん」


 田辺は一瞥くれると、清水と共に、そのまま教官がいる高台へ歩き出した。


「何だアイツ」

「NO.95田辺、NO.45清水、同じく救済階級B! 上がってこい!」


 田辺と清水は、おぼつかない足取りながらも、教官がいる高台へ上る。


 教官から何かを渡された2人は、高台から下りていく。


「サイハ! 呼ばれた?」


 トイレに行っていたシュウが、ちょうど帰ってきた。


「シュウ。いや、まだだ」

「……そう」


 顔を落としたシュウは、そのままそこら辺で右往左往しはじめた。

 シュウは先程から落ち着いていない。

 目元を泳がせ、ソワソワしている。

 見ているこっちもソワソワしてくる。


「シュウ。いい加減落ち着けよ。そうやって何回トイレを往復するつもりだ。もう5回目だぞ」


 シュウの動きがピタリと止まる。


「俺達は死力を尽くしたんだ。今後がどうなったって、後悔なんてないだろ?」


 そう言って、シュウの目を見つめる。


 シュウは何かが吹っ切れたのか、俺の言葉に頷く。


「そうだね。後悔なんてない!」


 シュウの目付きが変わった。

 

 そうだ。

 それでいい。


「俺達が進むべき道はただひとつ」

「「救助隊!」」


 シュウと声が重なる。



「だから、入れねぇって言ってんだろ?」


 またもや、上ずった声が聞こえる。

 

 田辺だ。


「田辺くん……もう、体調はいいんだね」

「心配される覚えはねーよ」


 シュウの問い掛けに、無愛想な返事をする田辺。


「清水君も」

「……うん」


 清水は普段無口なのだが、シュウとだけは、よく話す姿を見てきた。

 同じ訓練相手として、色々と話すことがあったのだろう。


「やっぱり、峰山君には勝てなかった。今まで君とずっと訓練をしてきたけど、1度も勝つことが出来なかった」

「清水君……」


 清水はうつむきながら話す。


 清水にもプライドがあったろう。

 仲の良かった人物から、自分の得意分野の成績が抜かれるというものは、嬉しい反面、悔しかったはずだ。


「峰山君には才能がある。でも、俺が負けたのはその才能のなんかじゃなくて、何よりも、きっと、君の努力・・に負けたんだと思う」

 

 清水の言う通りだ。


 シュウは力が使えない分、この1年、誰よりも努力した。


 勿論才能もあると思うが、コイツは努力というで、BAVを持った相手と互角に戦えるようになったんだ。


 それは、俺が一番見てきた──


「零乃ッ!」

「うわ!?」


 突然田辺からヘッドロックをかまされた。


 力が強い分振りほどけないし、痛い。


「お前、あの時照明に何をしやがった? 吐け!」

「バカ! いてェって! 離せ!」 



 何とか田辺のヘッドロックを回避することが出来た。


 ──そして、俺達の作戦と、俺が隠していた力を田辺達に伝えた。


「はあ!? そんなの予想つくはずねぇだろ! 峰山の黒い敷物だってそうだが、お前のその力なんか誰も予想出来ねぇって!」


 俺の力……俺は自身から5メートルまでなら、狙った対象の重力を自在に操る事が出来る。



 ──しかし、俺が視界に捉えて『記憶した物』、『動かない物』という条件下・・・であれば、自身から『100メートル』まで、狙った対象の重力を自在に操る事が出来る。


 シュウには、俺が照明を消す事と、黒い敷物でカモフラージュをしておくようにと伝えた。


 この力はかなり限定的で、使いどころがあまりないのだが、今回の試験でその力を発揮してくれた。



「だよね! 本当驚いたよ!」

「何喜んでだよ峰山。ぶっ殺すぞ!」


 キラキラと目を光らせるシュウに対して、火球を生み出そうとする田辺。


「予想出来ないのは当たり前だろうな。だって、隠してたからな。力」

「はあ!?」


 田辺は青筋を浮かべる。


 田辺が怒る理由は分かる。

 だが、勝つ為だったのだ。仕方がない。



 俺達訓練兵は、全員、誰がどの力を持っているか、知ることが出来る。


 何故なら、俺達訓練兵は、同じ釜の飯を食べ、同じ空間で過ごしてきた。

 日々の訓練等も全員で一緒にやってきた。


 シュウ以外の、他の奴等の訓練の様子を見る機会も多かったので、全員の力を把握出来た。



 その為、あらかじめ田辺達のBAVの能力を知ることが出来たし、向こうからも知られてたって事だ。


 だが、裏を返せば、訓練時に力を知られなければ、訓練兵に情報が流れないということになる。



 つまり、俺は力を隠して、この時の為に取っておいたってわけだ。


 だから、俺の力で不意を突くことが出来た。


 全ては勝つために・・・・・


 その事に、田辺は腹を立てているのだろう。



 田辺は、俺が力を隠していた事に怒っているのか、体を震わせている。

 しかし、俺が言いたい事も分かるのか、目をそらして舌打ちをする。


 田辺は落ち着いたのか、俺へと向き直る。


「まあ、その……お前の力を見抜けなかった事もそうだが、戦術をろくに考えなかった俺が悪い。……負けたよ」


 田辺はそう言うと、俺に手を差し出した。


「田辺……」

「田辺君……」


 シュウは俺の前にやって来ると、田辺の手を握る──


「いや、お前が先かよ」

「田辺君! あの火球……とてもっ! とても格好良かった! 俺なんか、まだ力使えないからさ、今度出し方教えてよ! もしかしたら、俺にも使えるかもしれない!」


 シュウは俺のツッコミを華麗にスルーした。


「お……おぅ」


 そんなシュウを見て、田辺は完全に引いている。

 

「……ぷはっ!」


 清水は笑いを堪えきれなかったのか、高笑いをしだした。



「NO.21滝沢、救済階級B-! 救助隊に入隊する者は、計4名。よく頑張った!」

「なるほど、入れねェってそういうことか」

「どゆこと?」


 シュウは?マークを浮かべる。


 救助隊は、外に出て、人々を助けるのが目的だ。

 

 だが、彼らを纏める者が必要になる。


 そして、その救助隊を纏める、救助隊の中から選任された者だけ・・・・・・・・が入隊出来る特殊部隊──



「気付くのがおせぇんだよ。隊長・・


 田辺と清水は、俺とシュウに敬礼をする。

 


 ──その瞬間、教官から新たな声明が放たれる。


「これより、CDA直轄救助部隊・・・・・・・・・の入隊者を発表する!!」


 その声明に、周囲の訓練兵達がざわつき始める。



 どうやら、とんでもないことになってきたようだ。

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