~ 間話 変わりゆく世界 ~
── ?? ──
「やはり、予言は間違いないと?」
「間違いないらしい。まさか、僕の子供がね……」
同じ頃、西日本CDA支部の中枢。セントラルスピアの最上階の一室で、重圧なテーブル越しに会話する2人の男がいた。
窓は特殊な光学技術で遮られ、必要最低限の光しかない。
テーブルの中央には、黒い球体のような物があり、そこからは、ホログラムが展開されている。
先程の模擬戦闘を眺めていたのだ。
「息子さんなら大丈夫です」
落ち着いた声音を発したのは、西日本CDA支部の天才とうたわれた、
茶褐色の髪を額の部分で半分に分け、キチンと整えられた髪。
堀が深い、ハーフのような顔立ちから、女性受けは必須であろう。
「貴方の息子だからと言って、ひいきしている訳ではありません。東堂教官によれば、BAVを扱えないのにも関わらず、戦闘技術1位という結果を残しています。いずれ力が使えるようになれば、予言通り──」
「それが恐いんだ」
ホログラムを停止させ、コメカミを手で押さえる壮年男性。
彼は疲労からか、目元には
そんな彼を見た十朱は、何も言葉が出てこない。
「十朱大尉……いや、今は少佐か」
「はい」
壮年男性は、肩に掛かる程の茶髪をくくらず、少しヨレヨレになってしまった軍服を、着替えようともしない。
しかし、十朱はそんな彼を見て、だらしないとは思わない。
圧倒的な信頼を寄せているからだ。
「彼等を……息子と零乃君をどう思った?」
壮年男性は鋭い眼光を十朱に向ける。
その言葉に、十朱は何か決心をしていたのか、すぐに口を開いた。
「彼等は大きく成長出来ると思います。是非、私の部隊に入隊させ、成長を見守らせて下さい」
「な……」
その答えには、戸惑いを見せる壮年男性。
何故なら、十朱の率いる部隊こそ、
つい先程まで訓練兵であった2人には、荷が重すぎると思ったのだ。
「なるほど……でも、それは……過大評価しすぎなんじゃないかな?」
「そんなことはありません。息子さんは圧倒的な戦闘センスをお持ちです。BAVを所持している相手にもひけをとりませんでした。戦闘技術面だけを見れば、救済階級はSクラスでしょう。しかし……」
十朱は何かを言いたげな、苦い顔をする。
「馬鹿だからね」
真顔で即答する壮年男性。
「……すみません」
「いや、いいんだ。アイツが悪い」
「それにしても……」と壮年男性は言葉を続ける。
「十朱少佐。君は見たかい? 零乃君の力を」
「ええ。零乃は力を隠していましたね」
「見て記憶した物……恐らく、動かない物を、自身から100メートルまでの距離であれば、重力を操れる力……」
壮年男性と十朱は、見た事を全て分析していた。
「零乃は、戦闘技術こそ足りないものの、戦術技能では圧倒的大差の1位をとっています。特に、先程の戦術は驚かされました。零乃はトイレに行くと言って、発電機の場所を記憶し、破壊。この事は、監視カメラの映像によって明らかになっています」
十朱は、腕に付いているガジェットのホログラムを展開して、壮年男性に監視カメラの映像を見せる。
映像には、サイハが発電機を見て、足早に立ち去っていく姿が映っていた。
その後、模擬戦闘開始から2分。突然発電機が、何かに押し潰されるように破壊されたのだ。
「フィールドの端から端までの到着時間等を計算して、トレーニングルームの壁を挟んだ発電機に、一番近い距離で力を使い、破壊したんだろう」
壮年男性は見取り図を広げ、サイハがいた場所と、トレーニングルームの壁の反対側にある発電機を、指で押さえる。
「その為、暗闇戦闘になる事は分かっていた。だから、あらかじめ武器が置かれてある黒い敷物で、息子さんにカモフラージュを施したと思われます」
──突然、ドアがノックされる。
壮年男性が入室の許可を出すと、スーツ姿の、2人の少女が入ってきた。
壮年男性が聞くよりも前に、十朱が話し出す。
「彼女達には、彼等のサポートを……つまり、彼等のオペレーターとして
十朱が話し終えると同時、1人の少女がパタパタと急いで前に出てきた。
少女の背負っているリュックが、少女が動くたび、ガサガサと音をたてる。
彼女は金髪碧眼と、まるで太陽のように美しく、明るい雰囲気の少女だ。
「あ……あの! 私、
勢いよく
「「あ」」
壮年男性と十朱の声が重なる。
「あ……あわわ! 大変です!」
四つん這いになってリュックの中身を拾おうとする少女に、更に追い討ちがかかる。
「きゃあ! 返して下さいっ!」
華やいだ声が辺り一面に響く。
皇が落とした物に、円盤の形をした掃除型AIが群がった。
掃除型AIは、皇が落とした物を『ゴミ』と判断して、容赦なく吸引しようとする。
「イタズラはそこまでだ。ララ」
みかねた壮年男性がそう言うと、テーブルのホログラムが勝手に起動した。
ホログラムは、何やら人の形を映し出す。
映し出されたのは、ツインテールの、メイド服を着用した少女だった。
切れ長のまつげと、腰まで届いている髪が、清楚な雰囲気を醸し出している。
『ちぇー。ハジメっちってばおもんないのー』
ララと呼ばれた少女は、頬を膨らませる。
「いいから、早く掃除型AIを退けなさい。皇君が困っているだろう?」
『……分かったよーだ』
壮年男性の言葉に、ララは渋々、掃除型AIに命令を下した。
掃除型AIは元の位置に戻る。
「す……すごい。操れるんですか?」
皇はその場に座り込んだまま、呆気にとられている。
「
「
優雅な足取りで前に出てきたのは、長い黒髪の少女。
銀色の眼鏡をしており、その奥には、澄んだ紫色の瞳。
彼女のスレンダーな体を
彼女は皇とララに
「これは名刺かい? 今時珍しいね」
壮年男性は不思議がりながら、名刺を確認する。
名刺には、『五十嵐 涼華』と綺麗に象(かたど)られている。
「
「
壮年男性が「あっ」と、何かを言い出そうとするも、
「それと、私の階級は曹長ではなく、特務曹長です。
「わ……分かった。本当に申し訳ない。そうだった。君の名前は、
「厳密に言うと、名前は五十嵐特務曹長ではなく、
「……むぅ」
司令と呼ばれた壮年男性は、遂にぐうの音も出なくなった。
「おおっほんっ!」
十朱がわざとらしく咳払いをして、場の空気を整える。
「とにかく、彼女達には、彼等のオペレーターとして就いてもらいます。宜しいでしょうか?」
「うーん……」
壮年男性は腕組みをして、考える。
「例の組織からのカモフラージュにもなる……か」
ポツリと、壮年男性が呟く。
「分かった。十朱少佐。君を信じる」
「ありがとうございます」
壮年男性は立ち上がり、十朱の元に向かう。
壮年男性は、周りには聞こえない程小さな声で──
「君の判断が正しいかは分からない。だけど、僕は君を信じている。これからの判断は君に委ねる。頼んだよ」
「分かりました……。
サイハとシュウ。
2人にとっての世界が……変わろうとしていた。
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