第42話 ドラゴン大進撃!!
『……お前は……本当にスーなのか……?』
『そうよ? あまりに久し振りだから忘れちゃったかしら? リュウジお兄ちゃん』
忘れはしない、当時より少しばかり成長している様に見えるが、美しいピンクの羽毛に包まれた鳥を連想させるその姿を見紛う筈がない……俺の妹、スーだ。
『どうして……お前は数年前に死んだ筈では……』
そう、スーは幼少の頃、ドラゴの反乱によって命を落としたのだ。
荼毘にまで付されてその身体は灰になってしまったのに何故?
『私はフェニックスドラゴン……生命と復活を司る者……身体が滅びても何度でも蘇るの……時間は掛かるんだけれどね』
フェニックスドラゴン……なるほど、その能力ゆえに幼い頃の戦闘訓練で攻撃魔法ではなく花を咲かせたりしていたのか。
死んでから発動する能力である性質上、生前に分かるはずは無いからな。
しかしここで疑問が残る。
『ミコトは……ミコトはどうなったんだ? お前はミコトの身体を使って復活したように見えるんだが……』
『ミコトちゃんは私自身なのよ……そして私はミコトちゃん自身でもある……』
『一体どういう事だ?』
スーは何を言っているんだ? 言っていることがさっぱり理解できない。
『ゴメンね、いま話すにはちょっぴり複雑なのよ……取り敢えず目の前の状況を何とかしましょう?』
そうだった、今はこんな長話をしている場合ではない……『
『ああ、分かった……必ず説明してくれよ?』
『うん、約束よ』
そう言うとスーは上空へと舞い上がっ…た…そして翼を大きく広げ魔法を唱えた。
『『
スーの身体が眩い光を放ち辺りを照らす。
心地よい……この光を浴びていると身も心も温かい陽だまりに居る様な幸福感に包まれていく。
するとどうした事だろう、俺の傷ついた身体が見る見る回復していくではないか、欠損してしまった右腕も翼も尻尾も全て元通りだ。
辺りを見回すと、先程までの戦闘行動で命を落とした竜滅隊や冒険者も続々と息を吹き返した……みんな何があったのか理解できずキョトンとしている。
『……何だ?
『よっ、ようドラゴ……また会ったな』
『てめえ!! リュウジ!!』
なんと、消し炭になって崩れ去ったドラゴまでもが生き返ったではないか。
俺としては多少複雑な心境だが、今はコイツの復活を素直に喜ぼう。
『お前はあのスーのお蔭で蘇ったんだぞ、ありがたく思えよ』
『スーだって!?』
ドラゴの目にもあの神々しい輝きを放つ不死鳥の姿が映ったはずだ。
かつて自分の手で殺めてしまった姉の姿を見て奴はどう思ったのだろうか。
『お前も手を貸せ!! でなきゃまた死ぬことになるぞ!!』
『仕方ねぇな……今回だけは手伝ってやるよ!!』
だがこれで戦いは仕切り直しになった、しかし良い事ばかりとは言えない。
依然として『
だが希望はある、まずはあの空にあるひび割れを塞ぐのだ。
奴らの増援を断つ事でこの不毛な消耗戦に区切りを付ける事は出来る筈。
しかしこちらの手勢はドラゴンが五頭、『
こちらも増援が欲しい、だがどうやって? 不幸な事に別のリューノスのドラゴンに知り合いがいないし、呼ぶ手段も無い。
『『
ドラゴが口から広範囲に飛び散る岩石を吐き出し『
しかし出来ない事を考えていても埒が明かない、俺たちもドラゴに続いて攻撃を開始した。
『『
『『
『『
次々と魔法を繰り出す俺達、数匹は撃ち落とせたが、やはり決め手にかける。
正面はリュウイチとドラミに任せて俺は奴らの背後にある空のひび割れに向かおうと思う。
なるべく魔法力を消耗しない様に奴らの隙を掻い潜りひびまであと僅かの距離に出る。
しかし奇妙なものだな、空に亀裂が入っているというのは……近くで見て改めてそう思う。
あとはあのひびに触れて俺の『
『あと少し……!!』
そう、あと少しでひびに触れられる……しかし俺の目前が急に真っ暗になった。
いやそうではない、縦の様に幅が広く平べったい『
『何だコイツは……!? 今迄こんな形の個体はいなかった筈……!!』
そいつの身体の中ほどに横一線に筋が走り上下に開くと、一際大きな目がこちらを睨んで来た。
しまった、こいつらの眼力はドラゴンの身体を委縮させる力があるんだった。
咄嗟に顔の前で腕をクロスさせその場を飛び去る。
くそっ、あいつらも馬鹿では無かった、こちらの考えを予測していたのだ。
そして今度は『
未だ空に翼を広げ留まっているスー目がけて進軍を開始したのだ。
『あいつら、スーを狙って!! させるかよ!! 『
空を切る俺の右手の爪から複数の水の刃が高速で放たれる『
スーに向かっていた奴らは微塵に切り刻まれ落下していった。
『大丈夫かスー!?』
『ありがとうリュウジお兄ちゃん』
『それはいい……だがお前はいつまでここに居るんだ!? 目立って危ないぞ!!』
『ここでこうしているのには意味があるのよ、あと少しだけ持ちこたえてくれないかしら?』
『何!? スーお前、何か策があるのか!?』
『ええ……それは……』
あと少しでその策の話が聞けそうなところに新たな個体が攻撃を仕掛けてきた。 仕方ない、ここはスーを信じて持ち堪えれば良いのだろう?
やってやろうじゃないか。
俺は再び戦禍に身を投じることにした。
予想通り俺達が押されていた。
俺達に魔力と体力の限界があるのに対して、『
あれは本当に生物なのだろうか?
もしかしたらその固定概念の上を行く俺達には理解の及ばない存在なのかもしれない。
俺達兄弟は地面で肩で息をしていた、もう限界を通り越して精神力で立っているに等しい状態だ。
相変わらずスーは空高くで翼を広げたままだ。
いつの間にか奴らと軽い睨み合いになっていた。
『
いや奴らにそんな感情がある訳ないか。
きっとこれは観察しているのだ、前に戦った時もそうだが何故かこちらをじっくりと観察していた。
恐らく一通り観察と分析が終わった後に一斉に攻撃してくる事だろう。
今は嵐の前の静けさなのだ。
『こんな無理ゲー……ネットなら酷評されて大炎上必至だな…』
『兄さん、何か言った?』
『いんや、何でもないよ……』
済まないなドラミ、前世の記憶がらみの戯言だからお前が聞いても理解できないよ。
やがて『
複数の個体がジワジワとこちらに向かって進み始めたのだ。
そしてそれらは少しづつ勢いを増している。
とうとう来るか? 大攻勢が? こちらも最後の力を振り絞り身体を奮い立たせる…眼前には既に一体が向かって来ていた。
『『
上空から空気を圧縮して放ったとみられる風の刃が俺の目の前の敵をズタズタに切り裂いた。
風属性の魔法……一体誰だ?
俺が空を見上げるとミントグリーンの体表の見た事が無いドラゴンが羽ばたいていた。
『やあ、初めましてミスター……私は『疾風のイエーガー』、救援要請により馳せ参じたよ~~~』
『救援要請!? 何だそれは!?』
『あの空に輝く美しいレディのお願いだからね……紳士としては放っておくわけにはいかないのさ~~~ ほら、他にも大勢駆けつけた様だよ~~~』
イエーガーと名乗るドラゴンの言う通り、俺の視界の中に一頭、又一頭とドラゴンが飛んで来るのが見える。
遂には傍目では数えられない程の大勢のドラゴンが空を埋め尽くしていたのだ。
まさかスーがあの場所に留まるのを強行したのは、あの光を俺達以外のドラゴンに届ける為だったのか? あの光は助けを呼ぶためのものだったという事か。
『さあ私たちが力を貸すから、君たちもあと少しだけ奮闘したまえ!!』
『済まない……恩に着る……!!』
奇跡が起きた…これなら十分勝機がある。
『『
『『
『『
様々な色のドラゴンが独自の魔法を放ち攻撃している。
もう何が何だか分からないくらい混沌とした状況だが頼もしい事この上ない。
俺は先程成す事が出来なかったひびの封印に再挑戦だ。
今度は拍子抜けするほど簡単にひびの前まで来る事が出来た。
やはり仲間がいるという事は心強い。
だが浮かれてばかりもいられない、まだあの盾型の化け物が控えているのだ。
盾型モンスターはまたしても俺を睨みつける、再び身体が恐怖心から締め付けられたように自由に動かせなくなった。
『くそっ……またか!!』
ぎこちなく動く俺に向かって数体の敵が襲い掛かって来た、今からじゃ避け切れない。
『『
横から目にも留まらぬ速さの光の線が飛んで来て敵を貫いていく。
『危なかったわね、大丈夫?』
純白の表皮の美しい雌のドラゴンが現れた、彼女が助けてくれたのか?
『『
今度は盾型モンスターに向かって上空から斧に変形させた手刀を振り下ろすブラウンの表皮の大型ドラゴンが登場、敵を真っ二つに一刀両断してしまった。
そんなあっさりと……。
『おう兄ちゃん!! 助太刀に来たぜ!! ガハハハ!!』
これはまた豪快なドラゴンだな。
『助かったよふたりとも……礼は改めてするよ!!』
『頑張ってね』
『おう!! 行ってこい!!』
ここまで見ず知らずのドラゴンに助けられたんだ、俺も確実に仕事を遂行せねばなるまい。
『『
空間のひびに触れて魔法を唱える。
実際は『
程なくひびに沿って氷が伝っていく、やがて完全に凍り付き、ひびの輪郭が徐々に薄れていき程なく跡形もなく消滅した。
もう向う側から奴らの増援が来る事は無くなったのだ。
『やった!!』
これで後はこの場に残っている『
『ちょっと失礼~~~』
『うわっ!! 何だ突然!!』
背後からイエーガーが俺の身体を掴み、一気に上空まで飛び上がったのだ。
着いた所はみんなが戦っている遥か上空だ、そこには他にも数頭ドラゴンが待機していた。
『一体何だよ……?』
『仕上げだよ~~~、ここから下に向かって神聖魔法持ちが魔法を放って奴らを一網打尽にするのさ~~~』
『成程……!!』
このイエーガーというドラゴン、中々の切れ者だ。
下の戦いを見ると、意図的に敵を集める様に立ち回っているのが分かる。
きっと全て
『よし!! そうと決まれば善は急げ、やるぞみんな!!』
『おう!!』
『はい!!』
『うっす!!』
『はいな!!』
何だか皆バラバラの返事で全く揃っていない、本当に大丈夫か?
まあいい……あとはみんなを信じるのみ。
『『
意を決して俺は全ての魔法力を込めて口から激流を迸らせる。
この魔法は『
これならきっと『
他の皆も次々と神聖魔法を下に向かって放出している。
グャオオオオオオオオ………。
上から大量に弱点属性の魔法を浴びせかけられ悲鳴を上げる『
魔法の効果範囲から逃れたとしても、周りを囲っているドラゴンたちが退治してくれる。
相手は弱り切っているから比較的安全に戦う事が出来るのだ。
『コイツで終わりだ!! 『
ちゃっかり戦闘中に神聖属性に目覚めたリュウイチが最後の一匹を焼き払って戦闘は終結した。
ウオオオオオオオオンンン………!!!
この場に居るドラゴンたちが一斉に勝利の咆哮を上げた……。
遂に俺達は別世界から訪れた理不尽な破壊者から自分たちの世界を守ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます