第43話 この素晴らしきドラゴンに祝福を
俺達『ドラゴン連合』と『
協力してくれた初めて会うドラゴンたちに礼を告げると、彼らは自分の
次に誰かの
しかし戦闘が終わって暫くするとスーの身体に異変が起こった。
身体を光が包み込み明滅を繰り返す。
その度に身体が透けていき、今にも消えそうなのだ。
『スー!? どうしたんだ!?』
俺達兄弟は慌ててスーの元へと駆けつける。
『そろそろ限界が来たみたいね……』
『限界……だって!?』
『私が復活するには本来、数百から数千年単位での魔力の蓄積が必要なの……今回は緊急事態だったから溜まっているだけの魔力で暫定的に復活したに過ぎないのよ……
だから依代として私の身体の一部でもあるミコトちゃんの身体が必要だった……足りない魔力を補う為に……』
『そうか……そんな事情があったんだな……』
『でも安心して、ミコトちゃんには何も起こらないから』
灰がミコトを包み込みスーが現れた時は、スーが蘇った事の驚きと歓喜、そしてミコトがどうなったしまったのかの不安が入り混じった感情を抱いたからな。
『そう言えばスーはミコト自身であり、ミコトはスー自身だと言っていたな、どういう事なんだ?』
戦闘中ずっと気になっていた、この言葉の意味する事に……。
『私が死んで焼かれた時の事を憶えてる?』
『ああ……忘れたくても忘れられるものか……』
荼毘に付した本人であるリュウイチの顔が暗く沈む……あの時の心中は俺にも計り知れない。
『あの時、お兄ちゃんたちは私の灰を少し被っているのよ……』
『ああ、確かにそうだな……』
あの時掛かったスーの灰のお蔭で俺の右腕の骨折は治ったのだからな。
『あの灰はお兄ちゃんたちの身体に同化していて、リュウジお兄ちゃんの場合は娘のミコトちゃんにまで私の身体の一部が受け継がれたのよ……』
『そうだったのか……』
さしずめスーの遺伝情報が子孫であるミコトに俺の遺伝子と共に入り込んだのだな。
生まれながらにスーの遺伝子を持っているのだから、スーが足りない魔力を補うため、自身の復活の器として、ミコトはうってつけだったと言う訳だ。
髪の色がスー譲りのピンク色だったのも頷ける。
『ミコトちゃんが協力してくれたからここまで持ったけどもう限界……私はまた永い眠りにつくわ……』
『そんな!! スー!!』
『心配しないで……ミコトちゃんの身体はお返しします、それに私はまたいつか蘇る……その時にまたお兄ちゃんたちの子供たちに会うのが楽しみだわ……』
スーの身体がこれまでにない程、見る見る透けていく、もう反対側の光景がはっきり見える程に……中には眠っているミコトの姿も確認できた。
『ありがとうスー……』
『じゃあね……』
そう言い残しスーの姿は完全に消えてしまった。
スーの身体があった位置から倒れ込むミコトの身体を受け止める。
『スーーーーーー!!!』
俺達兄弟の絶叫が辺りに響き渡る。
もう一度妹の死に目に会うとは思いもしなかった、二度目だろうとこんな事は慣れる筈も無い。
討伐に集まってくれたドラゴンたちに看取ってもらえたのはせめてもの慰めだ。
「あれ……? パパ……? 泣いてる……?」
俺の腕の中でミコトが目を覚ました。
『何でもないよ……ちょっと目にゴミが入ってな……みんなの所へ行こうか……』
「うん」
(さよならスー……)
もう一度だけ心の中でスーに別れを告げ、みんなの待つ輪へと俺達は歩いて行った。
『ドラゴも協力してくれてありがとうよ』
『フン……お前らに借りを作るなど俺様のプライドが許さん、これで貸し借りなしだからな?』
『ああ、分かってるよ』
『いつか必ずこの土地を奪いに来る……それまで首を洗って待っていろ!!』
そう捨て台詞を残してドラゴは地中に穴を掘りその中へ消えた。
「ドラゴおじちゃんはみんなと仲が悪いの? あたし、お話してみたかったな……」
ミコトが寂しそうな表情を浮かべる。
『昔に色々あったんだよ……だがいつかお前も話が出来ると良いな』
「うん!!」
『これはこれは美しいお嬢さん~~~お会い出来て光栄です~~~』
俺とミコトの親子の会話に割り込んで来た者があった、ミコトの前で恭しくお辞儀をするドラゴン……このおかしな話し方は……。
『イエーガー……あんた、まだ居たのか……』
『この素敵なお嬢さんはあなたの娘さんですかな~~~?』
『娘のミコトだ……』
『ミコトさん……!! 見た目だけではなくお名前までお美しいとはっ……!!』
何だこの芝居がかった話し方は? 軽薄な事この上ない。
『ミコトさんを嫁にください!!』
『断る』
『んんんん~~~即答!! つれないですね~~~
『誰が
まさかコイツ、ミコトを狙っているのか? 助けてくれたことには感謝しているが、お前の様に軽薄な
『今日は日が悪いようです~~~改めて求婚にお伺いしますので、この『疾風のイエーガー』をお見知りおきを~~~』
『とっとと帰れ!! 二度と来るな!!』
イエーガーは颯爽と飛び去って行った、どこまでもマイペースな奴め……。
『あのコ……あんな軽い感じだけどいい所もあるのよ? あまり嫌わないであげてね……』
『あなたは……』
『ハクアと申します……』
上品に会釈してきたのは俺を助けてくれた雌の白いドラゴンだ。
『これはご丁寧に……改めまして俺、私はリュウジと申します……』
ハクアのその柔らかい物腰についこちらも丁寧な口調になってしまった。
『イエーガーは真っ先にあの空の合図に気付いてここまでみんなを引っ張って来たのです』
『そうだったのですね』
少し邪険に扱い過ぎたか……しかしミコトにちょっかいを出してくる事とは話が別だ。
『私は占いをよくするのですが、あなたの未来には幾多の困難が待ち受けているようですね、これまでがそうであったように……』
『そう……ですか……』
『しかしそれと同時に輝かしい未来の暗示も見えています……きっとあなたは誰にも出来なかった大きな事を成し遂げるでしょう……』
『ハクアさん……』
確かにこれまでいろいろな事があった。
リューノスから旅立ってからの俺の日々は常に戦いの歴史と言っても過言ではない。
弱い者が傷つかない世界を実現したいと思いながらも暴力以外に解決方法を見出せなかったのだ。
これでは弱者を蹂躙する力ある者達と何が違うというのだろう。
しかし今回の事でまだ世界は捨てたものでは無いとも思った。
こんなにもドラゴンは協力しあえる…だからきっと人間や他の種族とも分かり合える事が出来る筈だ。
そう、まだ失望や絶望をするには早すぎる。
『私もそろそろお暇しますわ……またどこかで会えると良いですね……あなた方に幸在らん事を……』
『はい!! ありがとうございます!!』
俺は優雅に飛び立つハクアに目を奪われた……その様子はまるで美しい鶴が飛び立つようであった。
『いてててて……!!』
突然、足の甲辺りに痛みが走る……目を移すと物干し竿に使っていた竹のポールを突き立てられグリグリと捻られているではないか……やっているのは鬼の形相のリアンヌだ。
「私の目の前でよくも別の女に鼻の下を伸ばせるわね……」
『違う……!! 俺はただ彼女の飛び立つ姿があまりにも美しいからつい見惚れていただけだ……!! あっ……』
しまった…かなり余計な事を言った。
「この浮気者ーーーーー!!!」
竹を持ち替えたリアンヌは今度はバットの様に竹竿を振るい俺を叩き始めた。
『ちょっ……やめっ……!!』
みんなが見てるのにこんな恥ずかしい事を……こうなってしまうとリアンヌの怒りはそう簡単に収まらない。
『ガハハハッ……!! あんたら夫婦は仲が良いな……!!』
『はっ!? 何を言って……』
豪快な笑い声が聞こえた方を見ると、先程盾形の大型モンスターを手刀で一刀両断したブラウンの巨体の厳ついドラゴンがいた。
「これを見てどこが仲が良いって言うんです!?」
さすがはリアンヌ、こんな恐ろし気な風貌のドラゴンに食って掛かるとは、我が妻ながら惚れ惚れするね。
『まあまあ、男ってもんは美しい女がいれば見つめずにはいられねぇもんさ、俺だってあんたみてぇな気の
「そんな……」
ちょっと!! なに頬を赤らめてるんだよリアンヌ!! お前は俺の妻だろう!!
あっ、そうか……リアンヌもさっきはこんな感情を抱いていたのか……。
『おっと、旦那もそんなにおっかねぇ顔をしなさんな、ジョークだよジョーク!! 夫婦喧嘩はドラゴンも食わないって言うしな、仲良くやんなよ!! じゃあな!!』
茶化すだけ茶化してそのブラウンのドラゴンが飛び立っていく。
『あんた!! 名前は!?』
『マサキだ!! また会おうぜリュウジ!!』
重そうな身体からは想像もできない程軽やかにマサキは飛び去っていった。
物凄いソニックウェーブを残しながら。
『ドラゴンってホント個性的な奴が多いな……』
『そうだな……リュウジ、お前も含めて……』
『おっ? 言うじゃないかリュウイチ!!』
俺はリュウイチの首に腕を回してギュッと締め上げる。
勿論じゃれているだけだから手加減はしてる。
『もう、男ってこれだから、ホント子供よね……』
その様子を見てドラミが呆れている。
『僕たちもそろそろ行くよ……』
『えっ……!? もう少しゆっくりしていけばいいのに……』
俺は手を止めてリュウイチを解放する。
てっきりまた泊っていくだろうと思っていたから……。
『そうもいかなくてね……僕たちも自分の
『……それじゃあ仕方がないか……』
確かに今日はここが戦場になったが、『
次はいつどこが戦場になるか分かったものでは無いのだ。
『落ち着いたらまた遊びに来るよ……』
『ああ、待ってるぞリュウイチ』
『じゃあねみんな、今度は私の冒険者仲間を紹介してあげるわ』
『おう、楽しみにしてるよドラミ……』
上空に舞い上がった二人を見送る。
あれ? そう言えば俺は前から気になっていた事があったんだ、折角だからいま二人に聞いてみようか。
『なあ!! 聞きたいんだけど、お前たちは
それを聞いた二人が空中で体勢を崩す、これはズッコケると言う奴か?
『ええっ…てん!? 今更……!?』
ドラミがあきれ顔で地上へと戻って来た。
『やれやれ、まさかこんな基本的な事を君が知らないとは思ってなかったよ……』
リュウイチも降りて来て肩をすくめた。
『えっ? えっ?』
何だ? それってドラゴンの中じゃ常識なの?
しかしまさか、この後に聞いた話により俺の、俺達家族の生活が一変するとは思いもしなかった。
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