第23話 ドラゴンだよ!!全員集合!!
空の裏側から現れた一つ目の異形の化け物は尻尾(の様な部分)を起点に首をもたげた。
そして血走った巨大な瞳で俺とドラゴを見下ろしている。
身の丈はその起き上がった状態でドラゴンである俺の身長の五倍くらいの大きさがある。
奴はすぐには襲ってこなかった、ただじっとこちらを見ているだけだ。
まるで俺達を値踏みしているかの様だ。
あの目を見ていると、身体の外観はもとより内側からも隅々に亘ってのぞき見されている様な嫌な感覚に陥る。
『化け物め!! 俺の縄張りに土足で踏み込むとはいい度胸だ!! 死ぬ覚悟は出来てるんだろうな!?』
おいドラゴ、ここの地脈はまだお前の物じゃ無いぞ、それは俺の台詞だ。
しかもあの目玉野郎、話が通じる相手には到底見えないんだが、知能や自我があるのかどうかも現時点では不明なのだ。
相変わらずじっとこちらを見たままボーっと突っ立っている。
いまだに邪悪な気配と威圧感は身体からダダ洩れなのにこれは一体? 奴は何しにこちら側へやって来た?
これは何だか迂闊に手を出さない方がよい気がする、何故だか分からないが俺の直感がそう告げている。
このまま少し様子を見てみよう、いつ襲い掛かられても良いようにいつでも動ける体制を保って……。
『無視するんじゃねーーーー!! 『
「おいい……!? 何してくれてんだ!!」
あろう事かドラゴの奴、目玉野郎に向かって大量の岩石を放ったではないか。
全弾命中……まあ、これで倒せてしまったのならそれはそれで全然かまわないのだが、やはりそう簡単には事は運ばないみたいだ。
目玉野郎の身体に中った岩石は、そのまま奴の身体を素通りし、背中から突き抜けていった。
すぐに穴も塞がり身体も元通り、全くダメージになっていない様子。
まるで泥に向かって石を投げ込んだような感じだ。
なるほど、あのブヨブヨ、ドロドロした身体に岩は効かなかったか。
恐らく剣などの刃物で切断する、鈍器や拳で殴る、などの物理攻撃は効果が無いんだろう。
それなら……。
「『
抱えるほど大きな水の球を一個召喚した、それを目玉野郎の喉元……いや喉は無いか、こちらを見ている目玉のすぐ下あたりに向かってブチ中てるべく放り投げる。
フヨフヨと進む水の球……まず実践では喰らう相手はいないだろうという位遅い移動速度。
しかし目玉野郎は避けるどころか興味津々と言わんばかりにその水の球をじっと見つめている。
この異常反応からしてやはりこの化け物、どこかおかしい。
普通なら避けるか攻撃して撃ち落とすよな。
まあそちらがそういう反応を示すならこちらも次の手に移行する事にする。
「
俺の指パッチンに反応し、水の球が大きく弾ける。
さしずめ水爆弾と言った所か。
状況を確認する、先程まで巨大な目玉があった頭部と思しき部分が完全に吹き飛んでしまって無くなっている。
あれ? やり過ぎたか?
ドラゴの魔法が効かなかった時はどうなる事かと思ったが案外簡単に片付いたな、攻撃しない方がいいと思ったのは取り越し苦労だったか。
いや、悪い予感というのは何故か当たるもので、奴の吹き飛んだ部分がブクブクと蠢きながら膨れ上がる、再生する気か? さっき身体に空いた穴がすぐに塞がったことからそんな予感は薄々してたんだ。
またあの不気味な目玉とご対面か、正直勘弁してほしい気はする。
そう思っていたのだが、俺の予想は悪い方へと外れてしまった。
口だ、口がある……サメの様に頭部の端から端まで横断する巨大な口だ。
しかし今度は目が無い、目が無いのに口だけがあるというのはそれはそれでかなり不気味であった。
シャアアアアッ………!!!
目玉野郎改め、大口野郎は身体を揺らしながら耳障りな声を上げてこちらを威嚇する様に喚いた。
目玉野郎だった時とは打って変わりアクティブに動き出した大口野郎。
これはどこかで見た感じがする、そうだコブラだ!! キングコブラが敵を威嚇する時に取る行動そのものなのだ。
まさか、これは……今起こっている事を俺なりに整理してみる。
まずは目玉野郎だった時、奴の動きは緩慢で、襲ってくるどころかただひたすらこちらを見ていた。
そう、見ていたのだ。
こちらの姿を観察して身体の構造から魔力の高さ、身体能力などの情報を探っていたのだろう。
そして大口野郎へシフト、頭を吹き飛ばされた事によって新たに口が現れた。
口……呼吸をする、声を発する、そして食事によって栄養分を補給する器官だ。
口が現れたと言う事は完全に獲物を狩るための戦闘態勢に移行したと言っていい。
この場合の獲物とは勿論、俺達をのことを指す。
そのきっかけが俺の攻撃によるもの。
俺が戦闘態勢にしてしまった? もしかしたら攻撃をしてはいけないという予感はこうなるであろうとどこかで感じていたからか?
シャアアアアッ………!!!
大口野郎が俺達の方へ向かって口から飛び込んで来た、物凄い速さだ。
「うおっ、危ねぇ……!!」
信じられない速度で地面を腹這いで進んでいく大口野郎、手も足も無いのにどういった原理で移動してるんだ?
ああそうか蛇と同じだ、しかしコイツに筋肉があるとは到底思えないのでブヨブヨの身体を蠕動運動させることで動いているのかもしれない。
どちらかと言えばミミズだな、しかしここまで素早いミミズはいないけどな。
ギシャアアアアッ………!!!
Uターンしてこちらに戻って来た。
どうする、また頭を吹き飛ばすか?
『調子に乗るな!! 『
ドラゴの口から一つの岩石が勢いよく打ち出される、その岩は飛距離に比例して巨大化していった。
いいだけ大きくなった岩は今度こそ大口野郎の頭部をグシャグシャに押しつぶした。
まるでトラック同士の正面衝突を見ている気分だ。
衝突の衝撃でコースを逸れ、俺達の横ギリギリを惰性で通り抜けていく大口野郎だったものの身体。
『今のはどうだ!? 今度こそあの世に……』
ブクブクブク………。
やはりまた口が再生した。
奴を倒すなら完全に身体を消滅させなくては駄目だ。
しかしどうやら俺やドラゴの属性では奴をそこまで追い詰める事は出来ない様だ。
これは魔力の強さは関係なく完全に属性の相性の問題だ。
恐らく大口野郎は魔属性……神聖属性が一番対極にあるのでこれが使えるなら楽勝なんだろう。
せめて炎属性や雷属性の魔法で焼き尽せればもしや……しかしこの場に使える者が居ないのだからただの無い物ねだりだ。
ハアアアアッ………!!!
完全復活した大口野郎は再び俺達に向かって突進して来た。
くそっ、終わりが無いと分かっていてこの堂々巡りに付き合うのか? だが生き残るためにはやるしかない!!
「『
あれからどれだけ経ったのだろう、俺もドラゴも魔力が尽き、体力も限界まで消耗していた。
「ドラゴ……まだイケるか……?」
『俺を誰だと思っている……まだ余裕だ……それに俺はお前の味方になった覚えはない……気安く話し掛けるな……』
「へいへい……」
ドラゴの奴、強がりやがって、そんなに肩で息をして余裕な訳ないだろう。
しかしあの大口野郎は本当に化け物だな、頭を吹き飛ばして再生までの数秒は動きを止めるが、復活するとすぐにまた以前と変わらない速度で襲ってくる。
奴の魔力と体力は底なしか?
意識が朦朧とする……このままでは俺かドラゴ、どちらかが喰われるのは時間の問題だ。
ブシャアアアアッ………!!!
大口野郎が不気味な声を上げながら迫る。
……!? 疲労で足が言う事を聞いてくれない、初動で出遅れてしまった。
ドラゴも移動速度が確実に落ちている。
くそっ!! せっかくスーに呼び戻してもらったこの命をみすみすドブに捨ててしまうのか? そんなのは絶対に嫌だ!! 俺は大切な家族と再会するんだ!!
キイイイン………。
キターーーーーー!!
「『
効果を確かめている余裕はない、ありったけの魔力をぶっ放せーーーーー!!!
ギョギョギョギョ………!!!
俺の口から発射された水流は勢いよく大口野郎の顔面にヒットした。
水が浴びせられた部分の身体がドロリと溶け、鼻が曲がりそうな異臭を放ちながら煙を上げる。
「やった………」
前方に倒れ込み顎から地面に落ちる……もう限界だ……もう立ち上がる事が出来ない……。
『ほう……まだこんな力を隠し持っていたのか……』
「ド……ラゴ……?」
俺の鼻先にドラゴが立っていた……そうか、こいつも無事だったか。
「グハッ……」
次の瞬間、俺は頭に衝撃を感じた……ドラゴが俺の頭を踏みつけてきたのだ。
『さすがに訳の分からない乱入者には後れを取ったが、俺は貴様との勝負を止めたつもりは無いからなーーーー!! さあ第二ラウンドの開始といこうぜリュウジ!!』
「お前……どこまでも卑怯な……」
『何とでも言えーー!! 最後に立っていた者が勝者なんだよっ!!』
何度も連続で俺の頭を踏んで来る。
「そうか、そういう事か……じゃあお前も勝者ではないという事だな……」
『負け惜しみか? 聞く耳もたんな………なああああああっ……!?』
一瞬にしてドラゴが俺の前から居なくなった、横から飛び付いて来た大口野郎に噛み付かれ奥へと連れ去られたのだ。
「因果応報だな……」
地面に伏せたまま大口野郎を目で追う……奴に放った『
しっかり倒したと思っていたのだが、どうやら潰れた正面ではなく尻の方に口が現れ、執念でドラゴに食い付いたのだろう。
その証拠に今の大口野郎は尻がグズグズに潰れているのだ。
しかし嫌な奴ではあったがこんな結末を迎えるのは少々不憫ではある。
だが俺も一歩も動けない以上、助ける事も出来ないばかりか、ドラゴを食った後の次の標的は確実に俺だろう。
でもまあいいか……大口野郎が俺を飲み込んだ後、盛大に奴の中で自爆してやる。
これは水属性魔法ではなく生命力を爆発させるのだ、確実に奴を仕留められるだろう。
再会する事は叶わなかったが、リアンヌとお腹の子、マーニャがどこかで生きていると言うのなら危険な大口野郎をこの世界に残していく訳にはいかない、道連れだ。
スーには悪いがこれが俺の精一杯の悪あがきだ。
あ~もう意識を保つのが限界に来ている……まだだ、まだ少しだけ早い……。
「『
意識が飛びそうなその時……目の前の大口野郎に空から炎が浴びせかけられた。
「何……事だ……?」
身体に火が点き燃え上がっても尚、大口野郎は生きていた。
そのまま俺に目を付けると再び突進を開始したのだ。
「『
今度は研ぎ澄まされた刃の様な光の環が飛んで来て、大口野郎を口の先端から尻尾の先まで縦に一刀両断した。
メラメラと燃え上がる炎……大口野郎の身体は見る見る灰になっていく。
「遅くなってごめん……まだ生きてるかいリュウジ?」
俺に話しかけてくる声には物凄く聞き覚えがあった。
「来んのが遅せーよ……リュウイチ……」
「間に合ったからいいでしょう? リュウジ兄さん……」
今度は女性の声だ、こちらも聞き覚えがある。
「ドラミ……お前も来てくれたのか……」
懐かしい兄妹の声に安心したからか、俺はそのまま深い眠りに落ちていった。
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