第21話 世界の片隅で愛を叫ぶドラゴン
実の兄弟にして仇敵……ドラゴが何の前触れもなく俺の前に現れた。
何かしらのフラグが立ってから満を持して強敵登場!! ってならないのが創作と現実の差だな。
しかも最悪の場所での戦闘になりそうだ、そう遠くない場所に大事な家族が居るのを知りながらドラゴの安い挑発に乗ってしまった。
スーの事を罵られると歯止めが効かなくなる、すぐ頭に血が上ってしまうのが俺の悪い癖だが、中々治ってくれない。
こうなったら開戦と同時にドラゴに悟られない様、少しづつ戦場を移動させるしかない。
俺はドラゴから距離を取るようにさりげなく後ずさっていく。
奴が釣られてこちらに移動してくれればよいのだが……。
『何だ、攻めてこないのか? ではこちらから行くぞ!! 『
甘かった、流石に簡単に誘いに乗って来るドラゴではないか。
ドラゴの口から発射された岩石が飛距離に比例して巨大化しつつこちらに向かってくる。
「『
宙を切る俺の爪から発生した水の刃が巨大岩石に命中……しかし水刃は以前対戦した時の様に岩石を切断する事が出来ず亀裂を入れるのが関の山、しかし推進力を相殺する事が出来、岩石は落下し湖に着水、派手な水柱を立てた。
「押されている……?」
以前戦った雷属性のライデンに対しては俺の水属性は相性が悪く苦戦を強いられたが、土属性のドラゴに対しては相性が良い筈だった、これは一体どういう事なんだ?
『当然だ、貴様たちがリューノスでぬるま湯に浸かっている間に俺は一足先にこのドラゴニアで荒波に揉まれていたのだからな!!
この際だから教えてやろう……貴様ら兄弟が地上に降りる前に俺は『
『
自力で手に入れた
要するにより質の良い
俺の
『俺の魔力がどこまで上がっているか見せてやる……『
ドラゴが魔法を唱えると奴を中心に衝撃波が波紋の様に広がり、広範囲の地面の岩盤をめくれ上がらせる、その影響で側にあった湖の底の地盤までも砕いてしまい、湖はまるで栓を抜かれたプールの様に見る見る水量を減らしていった。
そう時間を掛けずに湖だったそこはただの濡れた地面になってしまった。
恐るべしドラゴ……『
未熟だった俺は当時の威力にすら太刀打ちできなかったというのに……。
今の大型地震並の振動は広範囲に伝わったはず、きっとリアンヌ達も感じたはずだ。
最悪だ、これでは俺がいくらドラゴの気を引いて戦いの場を移動させようとしても、奴が魔法を使うだけで必ず大地に被害が出てしまう。
これは思っていたのよりかなり厄介な事になった。
こうなったら仕方がない、ここを飛び立ち完全にロケーションを変更するしかない様だ。
「くっ……」
今度は翼を羽ばたかせ上空に飛び上がる。
ここから反転してこの場を飛び去ればドラゴだって嫌でも追ってくるだろう。
『『
ドラゴの居る地面から奴を取り巻く様に土塊で出来た筒状の突起が複数出現、その筒の先端から小型の岩石が空に向かって放たれたではないか。
「何!?」
速い、しかも数が多すぎる。
これでは『
「うわああああっ!!」
腕をクロスして顔面への直撃は防いだが、足や翼に直撃を喰らってしまった。
苦痛によりバランスを崩し地面に落下した。
「くそっ……」
手を付き、おもむろに地面から起き上がる。
『一体どうしたのだリュウジ……俺の方が強いのは揺るぎない事実だが、さっきから挙動がおかしいぞ、まるで心ここに在らずだな……今のお前の魔力からは焦りの匂いがする……』
何? まさか魔力の匂いからからそんな事まで感じ取れるのか?
そう言えば最初に俺が『
あの至近距離から超高速の水流を避けたのだ、まるで予め弾道が分かっていたかのようだった。
だがその魔力の匂いから相手の思考や状況を感知できる能力がそこまでの事を可能にするなら、単純な魔法力や攻撃能力より厄介な能力に違いない。
『今迄の貴様の行動から、この場を離れたいという意思が読み取れるぞ……近くに何か隠しているのか?』
「………」
『フッ、だんまりを決め込んでも無駄だ……貴様が口を割らなくてもこの一帯を瓦礫に変えてしまえば同じことよ!!』
ドラゴが又しても『
次に繰り出すのは先程とは比べ物にならない程の大地震になる事だろう。
「やめろ……!!」
俺は咄嗟にリアンヌ達がいる洞窟の方へと移動し立ち塞がった。
『ほう、そちら側に何かあるんだな? ククク、そうかそうか……』
しまった……。
『考えても見ろ、これ以上土地を破壊してしまったら地脈が傷つく、そうなれば吸収できる魔力の質が落ちるからな、そん事を俺がすると思ったか?
俺はここを四番目の自分の
失笑するドラゴ。
何てことだ、これは俺の隠しているもの、守ろうとしているものの方角を割り出す為のフェイク。
俺はまんまとドラゴの誘導に引っかかってしまった訳だ。
子供の頃、ドラゴは兄弟の中でも俺に次いで知能が高かった、それがあんな形とはいえ俺達より先にリューノスから旅立ち、ひとり過酷な環境に置かれた事で自分の固有能力を研ぎ澄まし、生き残るため、戦いに勝ち残るための知能と魔力を高めていたのだ。
今やドラゴはドラゴンとして俺よりも格段に上になっていた、俺の優位性なんてもうどこにもない。
俺の心のどこかに他の兄妹やドラゴを見下していた所があったのかもしれない、その驕りが、相手を舐めてかかった事が今の状況を生んでしまったのだ。
『そう言えば貴様は優しいドラゴンを目指していたんだったな……大方酔狂で立場の弱い人間の女子供でも匿ってるんだろう? なら貴様が命を懸けてそいつらを守ってやらなきゃな~~~!!』
くそっ、そんな昔の事をよく覚えてやがったな、しかもこちらの事情をピンポイントで当てて来やがって、お前はエスパーか?。
ドラゴは空を仰ぎ叫びを上げる、それと同期して地面から『
しかし何故対空に特化した『
もしやアイツ、まさか!?
『『
無数の岩石が俺の頭上はるか上空を山なりに飛んでいく、放物線を描く軌道は森とその先の岩場……俺の住処だ。
ドラゴはその位置を正確に知らないから手前から奥に亘って無差別に絨毯爆撃を行うつもりらしい、なんと狡猾で卑劣な奴だ。
「くそっ……あれを撃ち落とさなければ大変な事になる!!」
俺はドラゴに背を向ける事も
質量のある物体を飛ばす魔法の性質上、砲弾である岩の速度はそんなに早くない、これなら十分に『
「墜ちろ!! 墜ちろ!!」
『
次々と砕け散り落ちていく岩の破片。
よし、これなら何とかなりそうだ。
だがここで注意しなければならない点が一つある、先程岩の速度はそんなに早くないと言ったが、それは上昇中の事だけを指している。
放物線の頂点に達し落下に転じればそれは徐々に加速していき地表付近では狙い打つことが困難になるのだ。
だが岩は残す所あと一つ、アレを破壊してしまえば取り敢えずの安全は確保できるはず。
「ぐはっ!?」
背中から腹にかけて激痛が走る、下に視線を移すと腹から先端を鋭利に尖らせたモスグリーンの突起が飛び出ていた。
『馬鹿め!! 俺に背を見せてただで済むと思ったか!?』
俺のすぐ後ろ、背中からドラゴの声がする、腹から出ているこれはどうやら奴が魔法で大型化させた奴自身の鼻の先端にある角らしい。
夢中で岩を破壊していた俺の背後から高速で近付き特攻を仕掛けてきたのだ。
「ゴボァ……カハッ……」
夥しい量の吐血…口の中が血の匂いで一杯になる。
そして俺の目の前で仕留めそこなった最後の岩が落下体勢に入った……落下先はリアンヌとマーニャが待っている洞窟……?
「駄目……だ……」
朦朧とした意識の中、俺は必死に手を伸ばすが震える手では狙いが定まらない。
やがて岩は爆音を轟かせながら地面に衝突し、衝撃で着弾点の周辺を全て吹き飛ばしてしまった。
「ああ……」
腕の力が完全に抜け、だらりと垂れさがる。
まただ……何でこんな事に……何で彼女たちばかりがこんな酷い目に遭い続けなければならないのだ……こんな理不尽な虐待や恐怖から弱き人々を、愛する人々を守りたいがために頑張っているのに、世界を変えるために頑張っているのに……この転生先の世界すら俺の努力をあざ笑うかのように容赦なく残酷な現実を突きつけてくる。
『フン、あっけなかったな、拍子抜けだ……』
ドラゴの口調が少し寂しそうに聞こえた。
いや、そんな訳ないか、俺があまりに弱いから呆れているだろうよ……。
ドラゴが乱暴に頭を振り回すとその反動で俺の身体から角が抜け、勢いよく地上の方へと振り落とされた。
ただ成すがまま空中を落下していく俺……。
(ごめん……リアンヌ……マーニャ……あちらで会えたら土下座して謝るから勘弁してくれ……)
薄れゆく意識の中、俺はあの世での家族との再会を願う事しか出来なかった。
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