第4話 俺のドラゴン育成は間違っている


 「ねえ、リュウジ!! 遊ぼう遊ぼう!!」


 リュウイチとドラミが俺の所に来て遊びをせがむ。

二頭が舌を出して息を荒げている所を見るとまるで大型犬が懐いてきている錯覚に陥る。


「兄さんアレやって!! アレやって!!」


「分かったよ……さあ行ってこい!!」


「「わーーーーーい!!」」


 俺は一本の木の枝を拾うと思い切り遠くへと放り投げた。

 クルクル回転しながら飛んでいく枝を目を爛々と輝かせて歓声を上げながら猛ダッシュで追いかけるリュウイチとドラミ。

 いや、君たち……君たちには最強生物ドラゴンとしての自覚と誇りは無いのかね……これじゃあ本当に犬と変わらない。


 俺達が生まれてから十日……身体は随分と育った来た、もう人間の大人程の身長がある。

 しかし俺と他のドラゴンの兄弟たちには精神的な差が生まれつつあった。

これは前世の記憶……ある程度の人生経験を積んで転生した状態のドラゴンの俺と、一からドラゴンとして生を受けた兄弟たちとでは精神年齢に差があっても仕方がないのかもしれない。

 いや、唯一末弟のドラゴは他の三頭よりかは精神年齢は進んでいる様だが、奴は俺を含め他の兄弟たちとコミュニケーションを取ろうとしない。

 実際は何を考えているかは分からないのだ。

 幸い皆、早い段階で人語を覚えてくれたので俺の孤独感は随分と薄まった。

 しかしこれではたまたま家に遊びに来た歳の離れた従兄妹の相手をさせられてるのと何ら変わらない。

 ハッキリ言って疲れる。


「痛い!! やめて!!」


 突然スーの悲鳴が聞こえた…俺とリュウイチ、ドラミは目を丸くする。

 お昼寝が大好きで、大きな声を上げた事のない大人しいスー。

 その彼女がここまでの声を上げるのは只事ではない。

 急いで声がした方に三頭で駆けつけるとあの問題児、ドラゴがスーを足蹴にした挙句、首元に噛み付いているではないか!!

 その光景を見た俺は一瞬にして頭に血が上ったのを感じた。


「おい止めろ!! 何をやっているんだ!!」


 俺とリュウイチがドラゴをスーから引き剥がし、逃れたスーをドラミが抱き寄せ、守る様に抱きしめる。


「……気安く俺に触るな!!」


 身体を大きく振り、ドラゴにしがみ付いていた俺とリュウイチは派手に撥ね除けられた。

 くそっ、なんてパワーだ……伊達に兄弟の中で一番大きな体躯をしていない。

 しかしその様子を見て奴もしまったと思ったのか急に大人しくなる。


「ドラゴ……一体何があった?」


 俺は興奮を何とか抑え込み、出来るだけ冷静にドラゴに問いかけた。


「こいつが……寝ぼけて俺の寝床に入って来たんだ……」


 はあ? たったそれだけの事でスーに噛み付いたのか? ちょっと怒りの沸点が低すぎじゃないのかね……。


「あのな、スーはか弱い女の子なんだから、もうちょっと優しく接しられないのかな」


「じゃあリュウジは俺が悪いって言うのか?」


「俺たちは兄弟だろう……いきなり暴力を振るまでも無いと言ってるんだ」


「………」


 物凄い形相で俺を睨んで来るドラゴ。

 どうやらまだ納得していない様だ。

 仕方ない、ここは俺が何とかするしかないな。


「スーこっちにおいで」


 スーはドラミから離れ恐る恐る俺の方へと歩いてくる。

 そして俺にしがみ付く、しかしさっきの恐怖から立ち直っていないのか身体が小刻みに震えていた。


「スー、ドラゴに謝りなさい……邪魔してご免なさいって……」


 本当は俺もこんな事を言いたくはない……しかしこの場を収めるにはある程度の妥協は致し方ないのだ。

 スーはじっと俺の目を上目遣いで見ている。

 しかし俺の視線が自分を咎めるものではない事を感じ取ってくれたのかドラゴの方へ向き直った。


「ご免なさいドラゴちゃん……邪魔しちゃって……」


 スーは目に涙を滲ませぺこりと頭を下げた、よし今度は……。


「ほら、今度はドラゴも謝るんだ……噛み付いてご免なさいってな」


 短い付き合いながらも俺はドラゴが馬鹿ではない事を分かっている。

 被害者の方から謝罪をしてきたのだ、加害者であるコイツが何もしない事はないはずだ。


「……悪かった……噛み付いたりして……」


 ブツブツと小さい声だったがしっかりと謝罪の言葉を口にした。


「よし!! これでお互い後腐れなしだ!!」


 俺は両手を広げてスーとドラゴの頭を撫でた。

 スーは満更でも無い顔をしていたがドラゴはと言うと……。


「止めろ!! ガキ扱いするな!!」


 不機嫌そうに俺の手を跳ね除け、この場から去っていった。


 取り敢えずはこれでいい……ここでの暮らしがいつまで続くか分からないが、こんな狭い空間で尚且つ少ない住人同士でギスギスしたくないもんな。


 しかし、この時の出来事が小さな火種となり燻り、やがて大きな炎へと変わっていくのをこの時点の俺は予想すらしていなかったのだ……。

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