第3話 冴えないドラゴンの育て方
俺が生まれて五日目。
身体の表面も乾燥してかなり硬くなった。
皮膚は大根を下ろせるくらいにはザラザラに荒れている。
ヨチヨチだが自分の足で歩き回れる位にはなった。
背中の羽根も随意で動かす事は出来たが、飛べるまでには暫くかかりそうだ。
「さあリュウジ坊ちゃま、お食事の時間ですよ」
俺の世話をしてくれる少女エミリーが真ん中に骨の通ったどデカい肉を持って来た。
リュウジという名前は俺がエミリーに自分をそう呼ぶように言ったからだ。
竜で二番目だから『リュウジ』……何故この名前になったかはおいおい語るとして……。
それはそうと、おいそれ…もしかしてマンガ肉じゃないか? まさかこんな所でお目にかかれるとは……。
マンガ肉を知らない人がいたら困るので一応説明するが、漫画やアニメに登場する髭ボウボウで身体に獣の毛皮を纏っているだけの原始人がよく食べている肉に似ているから。
極太の俵型の肉を貫通する骨……未だに獣のどこの部位の肉か判断に苦しむ形状だな。
目の前に差し出されたマンガ肉はこんがりと焼かれていて、塗られたタレの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり唾液腺を崩壊させる。
「イタダキマス!!」
ガブリと一口で平らげてしまった。
骨も物ともせず噛み砕いて、さすがドラゴンの咀嚼力、何ともね~ぜ!!
カルシュウムは大事だからな、固い鱗の元になる……かは分からないが。
そうそう、俺は他の兄弟に先んじて片言だが人語を話せるようになっていた。
そもそもドラゴンの声帯は人間とは全く構造が違うらしく、ほんの少し苦労したが比較的すんなり喋れたのは俺の人間だった前世の経験のお蔭なのではないだろうか。
膨れたお腹を撫で下ろし舌なめずりしていると、ティアマト母さんが目の前に舞い降りた。
加減をしてくれているのだろうが結構な風力が俺に容赦なく吹き付ける。
『良い食べっぷりねリュウジ、おいしかった?』
「ウン!! モウ最高ダヨ!!」
『そう、それは良かったわね……御覧なさい、リュウイチなんて顔中タレまみれよ』
ドラゴンの表情筋の少ない厳つい顔の上、声が重低音過ぎて分かり辛いが、母さんは母さんなりに笑顔を湛え俺達に優しい声を掛けているのだ。
因みに母さんには俺が他の兄弟をニックネームで呼んでいる事を話したら、妙に気に入ったらしく彼らの正式名称がそれになったしまったのだ。
済まん兄弟たちよ……整合性を取るために俺も自らをリュウジと名付けたのだからそれで勘弁してくれ。
食事が終わるとリュウイチとドラミは二匹で上へ下への取っ組み合いをしている。
だがこれはただじゃれているだけで別に喧嘩をしている訳ではない…食後の運動の様なものだ。
スーは穏やかな寝息を立て、ドラゴは蹲ってじっと俺や他の兄弟たちの様子を遠巻きに睨んでいる。
何だろうアイツの態度は……ドラゴの奴、生まれた時からそうだったがどこか俺たちと距離を置いている様な気がする。
末弟にしては兄弟の中で一番身体が大きく成長が早い。
頭の中では一体何を考えているかは分からないが、俺には何かが引っ掛かる…取り越し苦労で終わればいいのだが。
ティアマト母さんも薄々この空気を感じている様だが、特に何をするでもなく俺たち子供を見守っているのみ。
まあ生まれて間もない俺たちが何かしたところで彼女にとっては何て事はないのだろう。
今の俺が心配するまでもない事だな。
あとは母さんに任せて暫くは子供時代を謳歌するとしますか。
俺たちが居るこの『リューノス』と呼ばれている場所はドラゴンの故郷の様な場所らしい。
ここから見える空は常に黄昏色で、日が昇ったり沈んだりしない所を見ると、普通ではない場所に存在している可能性がある。
今は無理だが成長したらこのリューノスを出て外の世界を見てみたい。
ここに世話係の少女が居るのを見る限り、外には確実に人間やエルフの社会がある……と言う事は剣と魔法のファンタジー世界が存在しているのは確実!!
俺はまだ見ぬ世界を夢見て心を躍らせるのであった。
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