第11話

あまりに長い一秒だった。

タイマーが止まったのか、自分の時間が止まったのか咄嗟に判断がつかなかった。

額から流れ落ちる汗を感じて、爆弾のデジタル表示が止まっていると理解する。

「と……まった……」

呟いた声は震えを帯びていた。身体が麻痺したように動かない。今になって鼓動が早まっていく。

僕はしばらくそこに寝そべったまま動けなかった。


「終わったか?」

余裕さえ感じる声で現実に引き戻される。

おそるおそる棚から身を出すと、微笑を浮かべて僕を見つめるアルフォードの姿があった。

僕が口を開くより先にアルフォードが勢いよく飛びついてきた。大きな身体に抱き締められて、思考が停止する。

「やっぱりお前は最高だ!」

彼の心からの賛辞がじわじわと沁み込んできて、僕は顔を綻ばせた。


アルフォードは身を起こすと、僕と視線を交えた。

そしてそのままキスをした。

一瞬、何が起こったのかわからなかった。

唇を離して、彼は唖然とする僕を見つめていた。悪戯っぽく微笑む。

「さっきの返事だ」

「え……」

まだ頭が追い付いていない僕を置いて、彼は携帯を取り出した。

その姿をぼんやりと眺めながら、やっと理解する。

「いやでも、結婚して……っ」

「結婚?」

電話報告を終えたアルフォードは不思議そうに僕を見る。

「俺はフリーだぞ」

「で、でも……」

と僕は彼の左手へ視線をやった。確かにそこにはリングが光っている。

僕の視線に気がついてアルフォードはああ、と納得の声を上げた。

彼は指からそれを抜き取りながら静かに言った。

「この指輪は父親の形見なんだ」

独り言のように言って、アルフォードは僕の手を取る。

左手の薬指にそれをくぐらせて、くすりと笑みを漏らした。

「やっぱりお前には大きいな」


指輪を僕に握らせながら、彼は額にキスを落として囁いた。

「俺の恋人になるのは後悔するぞ」

向けられた歪んだ笑みに、僕は微笑み返した。

「そっちこそ。僕は意外と頑固なんですよ」

僕は彼の身体に腕を回して瞳を閉じた。彼は僕に対抗するように優しく抱き返す。


耳に届く穏やかな潮騒は、僕たちを祝福するようだった。



                                 完

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潮騒が聞こえる 竹屋 柚月 @t-yuduki

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