第8話

広い船内は薄暗かった。人の気配が全くない。

「アルフォードはどこに……」

と呟いた瞬間、背後でガシャンと派手な音が響いた。次いで金属の重なり合う音。

突然落とされた暗闇に呆然とする。

数拍おいて、僕ははっと我に返って扉に飛びついた。

案の定、扉は開かなかった。轟音と同じくらいの反動が両手を痺れさせる。

閉じ込められたようだと理解するのに数秒を要した。

「おいっ」

強く扉を叩いてみるが、鈍い痛みが残るだけだ。

僕は大きく溜息を吐いてその場にへたり込んだ。

こんな時に限って携帯を持ち合わせていないし、

先ほど別れたばかりなのでアリサたちが探しに来る可能性も低いだろう。

暗闇に取り残され、不意に不安が大きくなっていく。


自分の不注意が招いた事態だ。

再び溜息した時、大きな音が響いた。驚いて飛び跳ねる。扉の外で誰かが錠を壊しているようだった。

重い何かが地面に叩きつけられる音とともに扉の隙間から光が差し込んできた。

ほとんど反射的に、僕はポーチから出したドライバーを相手に向けていた。

「何やってるんだ」

「あ、アルフォードさん?」

頭の端にもなかった人物の登場に、僕は驚きと喜びが入り混じったような声を上げていた。

アルフォードの声は拍子抜けしていた。僕は慌ててドライバーをしまう。

「すみません。あいつが戻ってきたのかと思って」

安心して力が抜けて、僕は壁に身体を凭せ掛けた。さりげなくアルフォードが片手を添える。

「もう応援は呼んだから」

「助かりました……」

「お前を閉じ込めた奴が爆弾魔だよ。うちで取り押さえた」

「えっ……」

さっと血の気が引いていく。犯罪者に何の疑いも持たずについて行ったのだと、やっと理解した。


言われてみれば彼は身分証も提示しなかった。

アルフォードの部下だと言われただけで簡単に信用したなんて、仮にも警備隊に所属する身として情けない。

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけして……」

アルフォードは心底呆れているだろうと思うと、顔を上げることができなかった。案の定、彼は何の言葉も返さない。

沈黙に気持ちが落ちていく。

顔を上げるタイミングを逃していると、突然身体がぐいと抱き寄せられた。

驚く暇もなく顔が肩口に押し付けられる。そのまま優しく撫でてくれた。

「もう大丈夫だ」

驚いて状況を把握するのにしばらくかかった。

彼の暖かく優しい指先の感覚に、さっきまであった不安が消えていく。目を閉じてアルフォードを感じる。

こうして彼に抱き締められるのがどれほど幸せなのか、知りたくなかった。

僕がどれほどこれを求めていたのかを……――。


このまま彼のぬくもりに身体を預けていたかったが、撫でる手がぎこちなくなっていることに気が付いた。

顔を上げるとアルフォードの渋い顔が飛び込んできた。何か言い淀んでいるようだった。

「あの……」

言いかけて大きな手で遮られる。彼の険しい表情を見て思わず息をのむ。

「聞こえないか?」

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