第7話

こちらから連絡する理由もなく、一カ月が過ぎた。


僕は海岸で不審物が発見されたという通報を受け、アリサとともにサンディエゴ湾へ来ていた。ここ最近は海洋調査ばかりだったので、不審物の捜査は久しぶりだ。

警備隊から通報を受けた通り、停泊された船の一つにそれは取り付けられていた。

「小型爆弾ね――取り外せる……ハリー、そっちお願い」

「はい」

アリサの指示に従って慎重にそれを外す。

「ほかの船は確認されているそうだから、これだけ持ち帰って調査しましょう」

アリサの声を背後に聞きながら、車に積み込まれた爆弾を僕はじっと見つめていた。

「ハリー?」

「あ、いえ――」

言葉を切って再びそれを見下ろす。

以前僕が解体したものと似ていた。同じプラスチック爆弾に間違いはないのだが、それ以外にもいくつかの特徴が一致している。

それをアリサに伝えると、彼女は眉をひそめた。

「うちの事件も、そのあとあった海軍の事件の犯人も捕まったんでしょう?

簡単な爆弾だし、特徴が似るのは不思議じゃないと思うけど」

とにかく、研究所に持ち帰らないことには詳細はわからない。連絡をくれた警備隊に回収を伝えて、僕たちは研究所へ戻ることにした。


車に乗る直前、視界に捉えた人物に僕の足が止まった。

ちらりと見えた人影はすぐに人ごみに紛れる。

「乗らないの」

「あ……すみません、先に帰ってください」

それだけ言うと僕は慌てて消えた人影の後を追った。

「……見失った…」

背の高い男なので、見つけるのにそう苦労しないと思ったのだが、ここが海軍基地の近くだということを忘れていた。

同じくらい大きな男があちこちにいる。


「ホワイトさん?」

諦めて引き返そうとした時、肩を叩かれてびくっと振り返った。

痩身の、気の弱そうな青年がそこにいた。僕と目が合うと彼は、ほっとしたように表情を緩ませた。

「やっぱり。ちょうど良かった。あなたを探してたんですよ」

「君は?」

尋ねながら記憶を探るが、思い当たる人物はいない。

「アルフォード捜査官の部下です。彼があなたを必要としています」

「僕を?」

アルフォードという名前に一瞬心臓が跳ねる。

「ええ。以前、連続爆破事件がありましたよね。そのときの爆弾と似たタイプのものを新たに見つけたんです」

「えっ」

今しがた考えたばかりの仮説だったが、そう簡単に肯定されるとは思わなかった。

いや、まだ同一犯と決まったわけではないが、アルフォードがそう言っているのなら、可能性は高い。

僕があれこれ思案する間にも、目の前の青年は話し続けていた。

「本部にも連絡しているのですが、別の爆弾事件で処理班が出払っていまして。

アルフォード捜査官が一人で様子を見に行っています」

「一人で?」

動揺するが、すぐに気を取り直して僕は彼に向き直った。

「それはどこに?」

「こちらです」

言い終わらないうちから彼は背中を向けて駆け出していた。


連れていかれた場所で僕は立ち尽くした。

「まさか……この中に?」

海軍所有の戦艦を目の前にして、僕は困惑して青年に確認した。

彼は重々しく頷いた。

これまでのものとは規模が全く違う。爆弾の威力にもよるが、ここで爆発が起これば被害はこれまでの比ではない。

僕は気を引き締めた。行ってどうするかなど考える前に足が向かっていた。

振り向き様に告げる。

「僕も見てきます。あなたは周りの避難誘導と応援の要請をお願いします」

「――頑張って」

彼の意味深な薄笑いに、その時の僕は気付く由もなかった。

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