第6話
アルフォードが消えて一週間あまりが経過していた。
分析がひと段落して身体を伸ばす。
視界に飛び込んできた時計を見て、午後三時を回っていることに驚いた。休憩を取るのも忘れて没頭していたらしい。
腹も減っていなかったので、気晴らしに散歩に出かけることにした。
別に不思議なことではない。
単に事件が解決してここへ来る理由もなくなったのだろう。一般市民としては喜ばしいことこの上ない。
そのはずなのに僕の心は満たされず、気付けば足は本部へ向かっていた。
自動販売機の前でペットボトルを呷る姿にはっとする。が、すぐに落胆する自分がいた。
遠目でもわかる。大きくガタイの良い男はアルフレッドのパートナー、ルカだ。
向こうも僕に気付いたようだった。
「お疲れ。最近よくこっち来るな」
「そうですか?」
言われて、ここ最近、毎日警備隊本部に来ていたことに気が付いた。
さらに無意識に彼を探していることにも。
僕は少し躊躇ったが、結局聞いていた。
「あの、この前NCISが捜査していた爆弾事件って、進展あったんですか?」
「アルフォード捜査官が来てた事件?――聞いてないのか?」
「え?」
ルカは驚いたように目を見開いた。
呷っていた水の入ったボトルも、宙で止まっている。
「とっくに解決してるよ。一週間前だったか、アルとの会話で閃いたらしい。――なんだ、直接話してるもんだと思ってたから」
「そうなんですか…」
時間が止まったようだった。僕はしばらく頭を動かせないでいた。
ルカが呼び掛ける声で、正気に戻る。顔を上げると、怪訝と心配をかけ合わせたような表情が向けられていた。
僕は笑顔を作った。
「解決したなら良かったです。ちょっと気になってただけですから」
まだ心配そうなルカを残して僕は踵を返した。
気晴らしに出たのも忘れてまっすぐ研究所へ戻っていた。
「――大丈夫か?」
探るような慎重な声に、僕はゆっくり頭をもたげた。
「何が?」
水質検査の試験管を持ったまま顔を上げると、マーヴィンが呆れたように見下ろしていた。
「何がって、ずっとぼんやりしてるから」
「ちょっと考え事してただけだよ」
笑顔を向けたつもりだったのだが、彼は首を振るだけだった。自分としてはそれほど落ち込んでいるつもりもふさぎ込んでいるつもりもないのだが、周りにはそうは見えないらしい。
原因は自覚しているが、そこまで深刻だとは思っていなかった。
結局、彼にとって僕はそれほど重要な人間ではなかったということだ。
当然だ。僕は犯人逮捕に繋がる情報を提供したわけではない。思えば彼は、事件の概要についてもほとんど話さなかった。
それはわかっているのだが、気がつけば彼のことを考えている自分がいる。
会わない時間が積み重なるほど、彼への思いも積もっていくようだった。
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