第16話 ハノイ逆ナン事件 2



ハロン湾の観光を満喫した俺はその日のうちにハノイに帰る必要があった。


しかしガイドをしてくれたハロン湾出身の女子大生が自分の生まれた家に来てくれたと言う要請があったので車で向かった。


車はハロン湾の中心街より20キロほど離れた農村地帯に向かっていく。


しばらく走ると

「あれが私の家です」らと彼女が言った。

おそらく事前に彼女が電話したのであろう、彼女の家につくと家族中が出迎えてくれた。


優しそうなお父さんとお母さんの歓迎を受けて手料理の夕食を食べた。


そこでお父さんにベトナム語で私のことを紹介していたが通訳のフォン君によると「なんか結婚予定の相手と言ってますよ」と伝えてきた。


俺は40を超えてるおっさんだ。腹も出てる。


向こうは才色兼備のお嬢さんである釣り合うはずがない。


しかし両親は彼女の説明を聞いて非常に歓迎をしてくれた。


その夜われわれはハノイに帰るつもりであったが「ぜひ泊まっていってくれ」と両親に言われた。


問題はその後である。

私が寝ているベッドのある部屋に夜中に彼女が入ってきた。


ある程度予測はしていたもののやはり遠慮が先に立った。野に咲くきれいな花を摘みとっても良いのか?しかし息子は別の反応であった


葛藤が起こる。


そしてその後に彼女の言った言葉が俺の人生の中で1番しびれた。


「日本人の精子をください、お願いします」日本語を習っている彼女はそう俺に懇願してきたのである。


彼女は日本人との間に子供作りたいのだ。


しかし「俺には妻子がいるよ」と言った。


「妻子がいるのは聞いたので知っています。結婚しなくてもいいから精子だけください」と言う非常にシンプルかつ直接的な要求であった。


喉から手が出る位のシチュエーションだった。しかしやんわりと俺は断った。


思わずカリオストロの城の最後の場面でルパンがクラリスを心で泣きながら手放す瞬間を思い出した。


彼女の論理は

「結婚しなくてもいいから日本人の子種が欲しい、後は自分一人で養育するし、両親も望んでいる」

この三段論法に俺は感動を覚えた。


日本人と言うものをそこまで高く買ってくれる外国人がいると言うことだ。


次の朝、フォン君に昨日の晩のことを伝えると「それは惜しいことをしましたね。代わりに独身の僕がいきましょうか?」と言った。


だから「ベトナム人の子種では役不足なんだ」と説明すると「わかりました、次に生まれてくる時は必ず日本人に生まれます!」と大きな声で言っていた。

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