第14話 地獄のクイニョン旅行

ベトナムの北部にビンディン省クイニョンと言う街がある。

クイニョンはホーチミンから北に約900キロのところにある。


この地方は優良な石が産出することで有名なので俺は日本のある石材会社の社長と現.地調査に行った。


問題はその帰りに起こった事件である。


クイニョン空港からホーチミン空港までの移動は国内線なので1時間前に必ず到着しなければならない。


もし1時間前に来れなかったらキャンセル待ちの人間に簡単にチケットを転売されてしまう。


大体いい石材が出るロケーションは山の中が多い。現場から空港まで思いのほか時間がかかってしまった。これが甘かった。


結局空港に着いたのは出発の50分前であった。


まぁ、日本人の普通の感覚で考えると「10分ぐらいは大目に見てくれるであろう」と言うのが正直な気持ちであった。


しかしカウンターにつくと「あなたのチケットは既に転売してあります。もっと時間厳守してください」と世界一時間厳守の人種の日本人に対して偉そうに説教してきた。


この空港はホーチミン行きは1日1便しかない。


しかし次の日にどうしても参加しなければならない会議があったので俺はその日のうちにホーチミンに戻りたかった。


そこで空港のタクシーを捕まえて「おいホーチミンに行けるか」と尋ねた。


日本で言えば東京駅でタクシーを拾って「広島に行ってくれ」というような感覚である。


しかもベトナムは高速道路はない、地道である!


タクシー運転手は驚いた顔で「もちろんいけます」と喜んでいた。


そしてこう付け加えた。「ただし、ホーチミンに行く前に家に寄っていっていいですか?」


俺は考えた、もちろん遠距離の遠出になるので服とかの準備が必要なのだろうと思った。


そして「構わないよ」と言ったらタクシーの運転手は自宅へ戻っていった。


そして自宅へ着くなり家族全員を集めて「おい、みんな喜べ。今からホーチミン旅行だ」と多分言ったのであろう。


家族全員は大喜びで旅の支度をしてなんと80近い婆さんまで乗り込んできた。


俺はあらかじめ長旅になることを想定して7人乗りの日本で言えばトヨタのイノーバタイプの車を選んでいた。


理由はゆったりできるからである。


しかし乗り込んできた家族の数は6名+乳飲み子が1人であった。


ぎゅうぎゅうづめの中、俺は家族にもみくちゃにされながら900キロを移動したのである。時間にして15時間である。


旅の最後のほうになると、ドライバーの家族も俺に気を使わなくなってきて、俺は奥さんに乳飲み子にミルクを与えるよう指示されて素直に従っていた。


我ながら情けなかった。


日本円にすると80,000円近い金を払ってタクシー代を払ったが深夜のホーチミン市に付くと俺の体はもうくたくたで死にそうだった。


やつらはおそらくただでホーチミン家族旅行を満喫したのであろう。


ベトナム人侮り難しである。

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