第12話 悲惨なアシスタントディレクター 2

眠い目をこすりながら俺は携帯電話に出た。

だいたいこんな夜中にかかる電話はロクな話しはない。


「あ、胡志明さん。電話繋がってよかったー!助けてください!」

「どうしたんや?こんな時間に?」

「いや、えらい目にあってるんです」

「わかった、落ち着いて今の状況を詳しく説明してくれ!」

「わかりました」

とアホADは以下のように説明した。

「今、どこにいるんや?」

「はい、昼間教えてもらったホンダ・ガールの通りの近くです」

「で、今の状況は?」行くなと言った場所に行ったことは敢えて怒らなかった。

「はい、路上でバスタオル一枚腰に巻いて体育座りしています」

「なにか目印となるような看板があるか?」

「Canon の赤い看板が見えます」この看板が見えるということで場所が特定できた。


「よし、わかったから待っとけ!10分で行くから」

電話を置いて車を運転する俺。

夜は空いているので10分もかからずに現場に到着した。場所は想像したとおりホーチミンのラブホ街である。


電話のとおりアホADは路上でバスタオル一枚巻いて座っていた。

すぐに近づくのも勿体無いのでその悲惨な状況を写真とビデオに収めてから彼に近づき声を掛けた。

「おい、大丈夫か?」


「よかったー、助かったー!」涙目で連呼するアホAD

車内に招き入れてことの詳細を尋ねた。


夕飯を食べたあと、彼はローカルの飲み屋で酒を飲んでいた。

酒が回り気が大きくなり昼間聞いたホンダ・ガールにチャレンジしようと決意した。

俺の書いた地図をタクシーに見せて現場に到着した。

ぐるぐる回るホンダ・ガールのお気に入りを一人を選んで指を指した。

鼻の下を伸ばしながらバイクの後ろにまたがるアホAD。

近くのラブホに着いた。

早速一戦、と服を脱いで待っていると彼女は「先にシャワーに浴びてきて」と言った。

鼻息荒く焦る気持ちを押さえてシャワーを浴びる。


この時に職業柄、風呂に入る時も携帯電話は肌身離さず近くに置く習慣が幸いした。


我慢しきれずにシャワー室から飛び出すアホAD。

そこに見たのは誰もいない部屋。

もちろん財布の入ったズボンや服も持ち去られたあと。

茫然と佇むアホAD

そこにさらに追い討ちがかかる。

ラブホの主が宿代を請求しに来た。

当然無一文。


裸で追い出されるものの戦争にもルールがあるのかバスタオル一枚のみは渡してくれた。


渡されたバスタオルを腰に巻いて路上に体育座りするアホAD

持っていた唯一の財産の携帯電話で俺に電話した。


とまあこういう流れであった。ベトナムではよくある話である。だから言わんこっちやない。


「おい、アホAD。おまえの情け無い姿を俺がビデオに収めてあるから今回製作した番組の最後に流せ!絶対視聴率上がるから!」

「それだけはカンベンして下さいよー」

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