第10話 ドライバー死刑宣告

海外に住む日本人にとって一番文化が違ってやりにくいものが2つある


1 お手伝いさん

2 お抱え運転手


どの2つも日本では相当な金持ち以外は経験したことがないことなので一般人はこいつらの扱いに関しては非常に不器用である。


もっとも日本人は自分の家がそんなに大きくないから自分が生活する世話ぐらいは自分で全部できる。

まして車の運転に至っては別にお抱え運転手を雇わなくても自分でさっさと運転して目的地まで行って帰ってくることができる。


しかしこの2つとも給与相場として非常に安ければ人に頼んでやってもらうことができてこれほど便利なことはない。


総じてお手伝いに関しては月給1万円でオッケーである。

お抱え運転手は時間が不規則なことがあるので月給2万円ぐらいかかる。


いずれにしても日本人とっては安いものである。

パチンコに一回行く金額である。


しかし反面、一旦雇った以上はこいつらに家と家族のことや車のことを全て託すことになるのである。


すなわち、もしやばいやつにこれを頼んでしまったら泥棒に番をさせるということになりかねない。

家財道具は狙われるわ毒を盛られるかもしれないし、車はそのまま持ち逃げの危険性に晒される。


つまり、この職業だけは厳しい人選が非常に大事になってくる。


であるから信用のあるベトナム人の親戚か友人などの紹介になるのが普通である。

紹介者が何かあった場合の担保になるからである。


これから俺が話すのはとんでもない運転手を雇った経験である。


このドライバーは一応大手のベトナム企業の社長からの紹介を受けた人間なのでまあまともな人間だと思っていた。


しかしある頃から俺はこいつの悪い癖に気づきだした。

それは「ガソリンを満タンにしとけ」と言って金を渡したにも関わらずフューエルメーターの針がいつも80%のところで止まっているのである。


まあ、一回二回はそういうことがあるだろうからと思って見て見ぬふりをしていたのであるが、これが毎回重なってくると俺も問い正したくなった。


「おい、今朝50万ドン渡したのになんで満タンになってないんだ?」


「あ、あなたは車のことに詳しくないからわからないだろうが、車にガソリンを入れたらすぐに針は反応しないんだ」


「何言ってんだ!俺は日本ではお前より車の運転歴は長いんだ。確かにガソリンのメーターはガソリンを入れた直後にはすぐに反応しないことを俺は知っている。しかし朝入れてなんで昼の今でも80%を指しているんだ?」


そう問い詰めるとやつは「やられた!」という表情をした。

この辺りベトナム人は素直である。


で、やつは次の日から戦法を変えてきた。

実はこいつは俺の子供の学校への送り迎えも毎朝お願いしていたのである。

俺から金をごまかせないと知ったやつは毎朝俺の子供に対して「30万ドンを下さい」というようになってきたのである


子供から

「お父さん、今日も運転手に30万ドン要求されたよ」

と直訴が届くので俺は決意した。


「おいお前、俺の子供から毎朝お金を巻き上げてガソリン代ごまかしているのと違うか?」


「いえ、そんなこと全然行ってません」

しれっとしている。


「よしわかった、今からお前が俺にガソリンを入れると称して騙した金額をここに書け」


「いえ、私は一回もそんなことしていません」


「うるさい!そんなことはどうでもいいから今まで騙した回数と金額をここに書け」


と俺は紙を差し出して運転手に強要した。

頭の中ではもう今日限りでやつには辞めてもらうつもりである。


なかなかしぶって紙に書かない運転手。


「もしお前が騙した金額を毎日いくらという風に書いたら俺はその倍の金額をキャッシュでこの場でお前に払う」

と言って俺は用意していた札束を運転手の目の前に積んだ。


一瞬やつは「えっ?」という顔をした。


それはそうであろう騙した金額の倍を払うと相手は言ってるのだ。


「本当ですか」

とやつは不安そうな顔でそういう。


「本当だ、日本人はウソをつかない。そのためにこの金を持ってきた」

札束を指差す俺。


するとやつは、いきなり用意した紙に騙した日付と金額を順番に書き込んで行き始めた。

俺の気が変わらぬうちに書こうと決心したのであろう、猛烈な勢いである。


ざっと3か月間で騙した金額が10万円なにがしであった。

よくぞ騙したものである。


俺は用意した札束の中から外である20万円を取り出してそいつに差し出した


やつは夢を見るような目つきでその20万円を押しいただく。


「おい、これはお前の退職金だ。これをもってさっさと家に帰れ!そして明日からもう二度と来るな」


と俺はやつに金を渡しながら死刑宣告を突きつけた。


倍の金額を払うには理由がある。

俺もボランティアではない。


俺のことはいいけれどもこいつは子供の顔を知っている。

しかも毎日学校に送り届けをしているので子供もある程度やつを信用しているであろう。


もしこいつが俺に恨みを持って

「お父さんが呼んでるよ、こっちにおいで」とでも嘘をついて子供をさらう可能性がある。


ここはベトナムである。

俺自身は死んでもどうっていうことはないが子供に被害が来ることだけは勘弁願いたい。

命を考えると20万円なんかは安いものである。


それ以来俺は、運転手を雇うことはせずに自分で運転するようになった。

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