第8話 犬 盗られたぜ!
俺は心の癒しのためにプードルを飼っている。
目がくりくりっとして白くて可愛いやつだ。
毎朝と夕方、俺はこのプードルの散歩を日課としている。
俺の健康維持のためにでもある。
ある日俺はいつものようにプードルを連れて家の周りを散歩していた
その時に携帯電話が鳴って仕事の話が始まった。
この瞬間から俺はプードルを監視する目が緩んでいた。
視界のはしっこでやつは道のほうに行ってウロウロえさを探している。
するとどこから来たのか二人乗りのアベックが乗ったバイクがやってきて俺のプードルを目の前でかっさらっていった。
まさに生き馬の目を抜く速さである。
おそらくはプロだ。
仕事の話の途中ではあったが「泥棒!犬泥棒!」と俺は叫んだ。しかしもう後の祭りである。バイクは犬を連れて遠くに走り去って行ってしまった。
犬を飼ってる人はよく分かると思うが長年付き合った犬はもう家族同然である。
その夕方もいつもエサを求めてくる犬がいなくなってなんとなく家庭内はお通夜のように寂しい雰囲気になっていた。
たかが犬ごときでこんなに人間の感情が変わるものだなと改めて感じた次第である。
「今頃やつは元気にしてるかな?」
「誰かに焼かれた食われたりしてないだろうな?」
(ベトナムは犬を食べる文化が今でもあるから)
頭の中ではいろんな憶測が飛び交った。
次の朝会社に行ってベトナム人従業員に昨日バイクに乗ったやつに「犬を取られた事」を伝えた。
「社長それは大変でしたね」
「可愛い犬だったのに残念ですね」
というお悔やみの言葉ともう一つ前向きな意見が出てきた。
「社長『盗犬市場』に行きましょう!そして犬を連れ戻しましょう!」
「盗犬市場?連れ戻す?なんじゃそれ?」
「だいたい犬を盗むやつは高額な犬を狙います。そしてかっさらった後には金に変える必要があるので必ず盗犬市場に売りに行きます」
えらく盗犬に詳しい。「お前が犯人ではないのか?」と疑うほどである。
「それでどこにあるんだ、その盗犬市場は?」
「はいこの会社からそう遠くないところです。バイクで15分ぐらい走ったところにあります」
「よしわかった。連れて行け。早くしないと他の誰かに買われてしまう」
「わかりました、今から行きましょう!」
俺はそいつのバイクの後ろに乗ってその盗犬市場とやらに向かった。
さすがに社員が言ってた通りその通りはかっぱらった犬を売る店が軒並み並んでいた。
通り全体に犬のにおいが充満している。
悪そうな顔の店主がうろうろしている。
「まずはこの店から順番に見ていきましょう」
社員の言う通りバイクを降りて盗犬市場の一軒目を除いた。
目つきの悪いばあさんが経営していた。
写真を撮ろうとしたらどうやら写真撮影は禁止らしい。
似たような犬が何匹がいたが 俺の犬とは違う。
そもそも向こうも俺に寄ってこない。
もし俺の犬だったら尻尾を振ってすぐに寄ってくるはずだ。
二軒目に入った。
ここは大型犬ばっかりだったのですぐにパスした。
「社長のプードルの写真ないですか?あった方が見つけやすいですよ」
俺はスマホの中の犬の写真を出して「これを使え」と言って差し出した。
次の店からはスマホの写真を見せながら「こんな犬いませんか?」と社員が訪ねてまわった。
すると3軒向こうの店を指差して「あそこに似たような犬がいたよ」と教えてくれた。
喜んで俺は3軒向こうの店に走って行った。
確かに白いプードルが何匹かいる。
しかし微妙に違う
逡巡していた俺に店主は「もうこれでいいじゃないですか。写真とよく似ているし一週間もすればすぐになつきますよ」と他人事のように言った。
そんな問題ではない。
しかし俺は考えた実際おっさんの言うように一週間もすればなつくかもしれない。
しかしその後に本当の犬が現れたらめんどくさいことになる。
おっさんは迷っている俺に最初の金額の半分(10000円)まで負けると提案してきた。
考えた挙句その意見を断った。
4件目5件目と回ったが結局盗犬市場には俺の犬はいなかった。
「誰かに食べられたのかな?」
と俺は社員に聞いた
「かもしれませんね。だとしたら冥福を祈りましょう」
なんて人の気も知らずに軽くいいやがる。
教訓!
ベトナムで今後犬を飼う人は必ず手綱をつけて目を離さないようにしましょう!
因みにベトナムでは各種「盗品市場」が豊富に取り揃えてある。
例えば「工具盗品市場」
ここでは工場で働いているワーカーがスパナとかトンカチをかっぱらって小遣い稼ぎしている。
あと多いのが
「バイク用品盗品市場」である。
なかなかハッピーな国である。
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